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第7話

 朝、いつも通り起きる。だが、いつも通りじゃないことが一つあった。 「…、くぅ…」  腰が痛い。痛くて重々しいのだ。俺は上半身だけを起こし、腰をさすりながら、昨日何かしたのかと考えを巡らせる。答えは、すぐそこに寝ていた見知らぬ顔だった。 「おはよう、悠太郎。」 「うおっ!?」  誠司は何食わぬ顔で当然かのように俺と添い寝をしていた。誠司は大きなあくびを一つすると、俺にべったりとくっついてきた。 「ね~今日、日曜日でしょ~?デートしようよ~、悠太郎!」  俺はしばらく呆れていたのだが、不意に昨日の出来事を思い出してしまった。  昨日、俺は、何で、コイツに、自分からキスなんか──っ! 「うわぁぁああ!!」  思い出すと、改めて俺がしでかしたことに吐き気を覚えた。いやいや、いくら状況が状況だったとはいえ、自分からするのは有り得ない。  誠司はいきなり叫んだ俺に対しても、優しく冷静に対応した。 「キスしよう、悠太郎♡」  誠司が上半身を起こし、俺の顔に近づいてくる。俺はギリギリのところで誠司の肩をつかみ、俺から引き剥がす。 「ま、待て!お前は昨日のことについて何とも思わないのか!?」 「ん?幸せだったけど?」 「だーからっ、見ず知らずの男とセックスした後、よく顔を合わせて恥ずかしがらないな!」  そう言うと、誠司は一瞬無表情になって、肩をビクッと震わせた。あ、俺、地雷を踏んだかんじか…?  そんな俺の心配とは裏腹に、誠司はすぐにニコニコとした顔に戻った。そして首を左右に傾けながら、んー?などと言う。 「そんなことより、デート行こう、デート!」  誠司は子供みたいに足をバタつかせ、駄々をこねる。俺はひとつため息をつくと、誠司に言った。 「ダメだ。今日も会社に行かないとだからな」 「え?会社?日曜日なのに?」 「あぁ、なんつーか…その、休日に出勤したら、休日手当てが出るんだよ」  誠司は一瞬呆気に取られていたようだった。それもそのはず、俺の会社はいわゆるホワイトではない。休日手当てが残業手当てよりも高いという、恐ろしい会社なのだ。 「え、日曜日なのに出勤するとか有り得ないよ」 「…誠司はバーのマスターだろ?行かなくて良いのか?」 「僕は大丈夫だよ。別に、バーテンダーなんて沢山いるでしょ?僕が有給を取っても、マスターは代わりにいるよ」 「あ、そうなのか?」  …ちょっとだけ、羨ましいと思ってしまう。だって、バーテンダーって、なんか…毎日毎日昼夜逆転してるだろうとばかり思っていた。  まぁ、そりゃあ毎日働きっぱなしだと日の光も浴びれないよな。確かに誠司の言う通りだ。  だが、俺は違う。俺はいつか貰うことになる奥さんと子供を養うために、今からでも金を貯めておかないといけないんだ…! 「会社に行く」  意地でもそう言う俺に、誠司はニコニコと笑いかける。そして誠司は誠司の鞄からおもむろに腕時計を取り出すと、俺に見せつけた。  時計は…ちょうど午前9時を差していた。 「は…は!?」  俺は誠司から誠司の腕時計を取り上げて、目を近づけて見る。まずい、まずい。あの社長のことだ。たとえ休日出勤をしたとしても、遅ければ意味がないと怒るだろう。  社長の怒る時間はとてつもなく長くて、面倒である。それだけは避けたい。 「あぁ…休むわ、俺…。」  頭を抱えながら決心すると、誠司は嬉しそうに笑いながら言った。 「やったぁ!今日はデート三昧ね!」 「はい、はい…。」  年下を宥めるようにして接する俺に対して、誠司は目を輝かせながら飛び跳ねた。 「僕、着替えてくる!悠太郎も早く着替えてね!」  飛び回って部屋から出て行く誠司が、どことなく眩しい。俺からすれば、誠司と目も合わせられないというのに…。  誠司が部屋から出ようとしたとき、ふと、誠司が呟いた。その言葉は誠司らしくない、悲しい響きをしていた。 「――――――あと2日――――。」  誠司の背中はどことなく悲しそうに落ち込んでいた。

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