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セッション初体験
リハ後…
その日は、カイがお店をやる日だそうなので、
僕はそのまま、そこに居残ることにした。
ちゃんと営業しているのを見るのは初めてだ。
スッキリ片付けられて、照明も営業用にされると、
狭いけれども、それなりに、
開演前のライブ会場の様な雰囲気になった。
実際、ここでライブやイベントも行われるらしい。
「ワンマンできるじゃないですか」
「まーそうなんだけどさ…」
「店番しながらのLIVEは難しいからね。かと言って、俺のLIVEで親父が店番ってのもどーよって感じだし」
「あーなるほど…」
「ま、いずれね…他の形でファンの子たち呼べるイベント…やってみてもいいかなとは、思う」
開店後…
しばらくすると、お客さんが入ってきた。
「いらっしゃいー」
30〜40歳くらいだろうか、
サラリーマン風のスーツの人だった。
カイは、親しげに話しかけた。
「今日も仕事だったんですかー?」
「そーなんですよー」
「ビールで良いですか?」
「お願いしますー」
常連さんなんだろうなーと、僕は思った。
「はい、お疲れ様でしたー」
彼のビールが出て…3人で乾杯した。
「…こちらは?初めての方?」
「あー、ウチの新しいボーカルです」
カイが、彼に僕を紹介した。
「あ、どうもー」
「へえーそうなんだー」
「この人もね、ギター弾くんだよー」
「え、そうなんですか?」
やっぱり、この店には、
それなりにミュージシャンが集うらしい。
「あとで一緒にセッションしたらいい」
「セッション…?」
僕はその場で、『セッション』を調べた。
セッションとは…
バンドの合奏のことだが、「ジャム」と同義で、たまたま顔を合わせたミュージシャンによる合奏のこともいう。
なるほど…
と、またお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいー」
今度は2人連れだった。
割と年配の人と…まあまあ若そうな人…
2人ともスーツ姿だった。
「あ、今日カイくんの日なんだ」
年配の方の人が言った。
「そーなんですよ。ボトルでいいですか?」
「残ってる?」
「残ってますよー」
カイは、慣れた手つきで、ボトルと、氷を出した。
そしてまた、乾杯になった。
基本、そこにいる全員で乾杯するシステムのようだ。
「メンバー揃ったじゃないですか…何かやってくださいよー」
カイが言った。
「こいつ、歌いますから」
「えええっ…」
年配の人はドラム…
お連れの若者はベースを弾くそうだ。
「ハードロック歌える?」
「まード定番のやつなら…」
「じゃあ、パープルとか、やりますか」
「ハイウェイスターとか、バーンとか、いける?」
「まーなんとなくなら…」
お客さまたちは、いそいそとセッティングを始めた。
僕はまだよくシステムが分からなかったが…
とりあえず、カイに促されるまま、
マイクの前に立った。
そして、そのサラリーマン達による、
演奏が始まった。
ハードロックのド定番の、あの曲だ…
英語の歌詞は、メッチャなんちゃってだったが…
何となく雰囲気で、僕も歌った。
へええー
これはこれで、楽しいぞ。
ひとつも息の合ってないメンバーで
とてもとてもユルい演奏なのに、
次に何が出てくるか分からないスリルがある。
出てきたものに、即座に合わせるっていう…
アドリブの練習にもなる。
ギターソロになった。
サラリーマンすげーちゃんと弾いてる…
歌に戻るタイミングとかも、
みんなが目で合図をしてくれる。
そしてエンディングも…
なんとなく、目配せをしてのー
ドラムに合わせて…ちゃんとビシッと終わった。
パチパチパチパチ…
拍手が聞こえた。
いつの間にか、お客さんが増えていた。
そんな感じで何曲か演奏して、
一緒にやったメンバー同士、お礼を言い合った。
「ありがとうございましたー」
「いやーさすが、歌上手いねー」
リーマンギタリストに褒められたぞー
カウンターに戻ると、僕の隣の席に、
また違う年配の男性が座っていた。
「いやーよかったよー」
彼は、とても親しげに話しかけてきた。
「あ、ありがとうございます…」
「カイくんのバンドのボーカルなんだって?」
「あ、はい」
「名前は?」
「カオル…っていいます」
「カオルくんね…」
そして彼は、カイに言った。
「カイくん、カオルくんに1杯あげて」
「えっ…」
僕はちょっとビックリした。
「頂いとけよ、ハイボールでいい?」
「あ、はい」
ハイボールを頂いた…
「乾杯〜」
「ちなみにこちらは、不動産屋やってる羽田さん」
カイが紹介してくれた。
「よくこちらにいらっしゃるんですか?」
「しょっちゅう来てるよー」
その羽田って人は、既にだいぶ酔っ払っていて、
すごく色々と話しかけてきた。
まー気のいいおじさんって感じだった。
他のお客さん同士も、みんな顔見知りみたいだった。
その後も、僕は…
そこに集う色んな人たちと、セッションを楽しんだ。
羽田っておじさんは、
楽器はやらない、聞く専門らしく、
セッションが終わるたびに
「よかったよー」と言っては1杯ご馳走してくれた。
さすがに夜もふけて…
他のお客さんは、みんな帰ってしまった。
隣の羽田さんだけは、まだまだ元気に居座っていた。
…と、
羽田さんの手が…
コッソリ…僕の太腿に触れてきた。
…ええっ…?!
その手は、するすると太腿をさすり…
だんだんと股間の方へ滑り下りてきた。
「…なっ…なんですかっ…」
僕は思わず声を上げてしまった。
「いやーカオルくん、可愛いよねー」
言いながらその手は、ついに僕のモノに到達した。
「…っ」
僕はうっかりビクッとしてしまった。
酔っ払い羽田さんは、
めっちゃエロ親父の顔になっていた…
それでもカイの店のお客さんだし、
無下にはできないと思って…
僕は、下を向いて彼のその手を掴んで、
カイには気付かれないくらいの小さい声で言った。
「やめてください…」
ところが、羽田さんはそれでも引き下がらなかった。
執拗に…僕の股間を弄り始めた。
「…んっ…」
僕は声を殺して身震えた。
「羽田さん、悪いけど今日はこれで閉めますねー」
カイが急に、とても大きな声でいった。
「お会計でいいですか?」
「…えっ…あ、あっそう」
羽田さんは、ちょっと気まずそうに、
慌てて僕から手を離した。
そしてすごすごと…お金を払って出て行った。
あー助かった…
カイがカウンターから出てきて、僕の肩を叩いた。
「ごめんねカオル…あの人、可愛い子見ると、すぐ手を出しちゃう癖があるんだ」
「あ、そーなんですねー」
「まーでも、ある意味、お前が可愛いってのが、おっさん的にも立証されたって事だな…」
物は言いよう…ですねー
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