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第2話
男は先に部屋に居た俺の姿を認めると軽く会釈をして、俺も何となく顎を引いてそれに応えた。彼はドアの近くの壁に寄りかかると、手にしていた缶コーヒーのプルタブを開けた。
俺も飲み物を持ってくればよかったと思いながら、狭い喫煙室で相席になった男の姿を紫煙越しに眺めた。この一週間でたまにここで見かけるようになった男が首から下げている入館証にはゲストと書いてあり、うちの社員では無い事が分かる。
ふぃー、と細く煙を吹くと、ふと煙草に火を点けた彼の視線がこちらを向いているのが感じられた。何となく居心地が悪くなって男から意識を遠ざけようとしたとき、彼が俺に声をかけてきた。
「木崎さん? あの、もしかして管理チームの木崎大河 さんですか?」
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