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第22話

 本当に女子のように俺の大きめの上着の襟に顔を埋めた水無月は、嬉しそうにオフィスから出ていった。  水無月はあの痴態を見られてから、俺には猫を被るのは止めたみたいだ。その証拠に二人きりになると途端に彼はベタベタと俺に触りまくり、甘えまくり、構いまくる。  そんな堪えがたいセクハラに俺が耐えているのは彼が大事な客だと言うこともあるが、やはり遣り手で仕事はスマートにこなす彼をどこか嫌いになれないからだ。 「ねえ今度、二人で焼肉でも行かない?」  急にまた耳元で聞こえた声に大きく肩を震わせた。はやっ、もう帰ってきたのかよ。 「きっと木崎君は肉食男子だからこんなに体温が高いんだね」  ふわん、と甘い香りが鼻先を掠めた。今、後ろを振り向けば確実に俺の上着と自分のコートと細身のスーツに身を包んで、両手で持った熱いホット甘酒の缶をふうふうしながら啜る綺麗な顔が拝めるはずだ。

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