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第25話
「うわあっ、やっぱり寒い! 凍え死ぬっ」
すでにビルの表玄関は施錠をされているから、警備員のいる裏口から外に出る。体に吹き付ける強い風に開口一番叫んだ水無月は、
「駄目だ。今夜も湯たんぽがないと眠れない」
湯たんぽ――。彼の言うそれは、今夜のベッドを供にする相手のことだ。
水無月と会ってからの短い期間に俺はあの初日と同じ光景を五回見た。五回とも相手は違う男で、最初こそ、そのあられもない姿を見せつけられてあたふたしていたが、もう慣れの領域に入っている。
通勤途中の大きな橋の袂の横断歩道。その渡った先に建っているシティホテルの十階の窓を、俺は律儀に毎朝見上げている。
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