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第31話
にっこりと笑うその笑顔になぜか頬が熱くなる。それを気づかれまいと、
「っ、そっ、そりゃ心配しますよッ。今は重要な時期だし、それこそ水無月さんに何かあったら……」
俺の上擦った小言は、いきなり正面から抱きついてきた彼の腕の力に遮られた。
「みっ、水無月さんっ! ここは外なんですよっ。誰かに見られたら……」
「大丈夫。きっと酔っ払いのふざけあいだと思うよ。それにこんな時間に道を歩く人なんかいないじゃない」
抱きつかれてその場に立ち尽くしても、俺の視線は忙しなく周囲を窺う。確かにもう日付も変わろうかという深夜の歩道を歩く人はいないが、それでも駅を出入りするタクシーの通りは結構あって、俺は何とか引き剥がそうと水無月の両肩を掴んだ。すると、
「木崎君は僕に対して偏見を持たないんだね」
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