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第34話

「すごいね、君の本能! 僕が君を喰っちゃうとでも思った?」 「……喰われるとは思いませんが、何か大切なモノを無くしそうな気が……」 「僕は困っている人を襲うような節操なしじゃないよ。タクシー代もバカにならないし、あんな寒いオフィスで朝まで過ごして、それこそ君が体調を崩して寝込んだら、このプロジェクトは破綻してしまう」  確かに。俺も水無月にもすぐに代わりを務めてくれる人材はいない。 「それに着替えなんて今さら気にするの? 君は平気で徹夜して翌日も着の身着のままの方が多いじゃないか」  そう言いながら水無月は冷たい手で俺の手を掴むと強引に引っ張っていく。 「水無月さん、俺はまだ泊まるとは……」 「いいからいいから。それにしても君は本当にあったかいな。一緒に寝たら今までで一番の湯たんぽになりそうだ」  笑いかける水無月が舌舐りをしたような気がした。その意味深な微笑みに思わず背筋が震えてしまう。抵抗虚しくホテルへと連れ込まれ、俺は本当に大切な何かを無くしてしまうかもしれない予感に身震いした。

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