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第56話
窓の外に視線を向けて、了解、とおどけて言った水無月に聴こえないように小さく息をつくと、俺は鞄を持って部屋のドアを開けようとした。その時、
「木崎君っ、待って!」
急に水無月の大きな声が部屋の中に響いて、俺はドアノブから手を離した。振り向くと、彼はこちらに背中を向けたままで、
「まだ行かないで! 早くこっちに来て!」
視線は変わらず外を見たまま、水無月は肩を少し捻って俺を手招きしている。やれやれ、何だよ、と俺は部屋の中へと戻って、椅子の上に自分の鞄を置くと、
「一体、どうしたんですか」
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