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第91話

 俺は煙草を一本、取り出すと、 「それなら、さっき廊下ですれ違ったんじゃないですか? 大杉さんが来る前に俺を尋ねてここに来たから」  えっ、と大杉さんが何かを思い出すような素振りをした。そして、ええっ、と驚きの声をあげると、 「確かに一人、すれ違ったけれど、あれが水無月なのか? 随分昔と印象が変わっていて全然分からなかった」  それは大袈裟だろうと煙草に火を点けたが、どうやら薄く立ち上った煙の向こうの大杉さんの驚きは本当のようで、 「そんなに面変りしていたんですか?」 「いや、そんなに意識して見ていなかったから。でも、水無月は確かに綺麗な顔をしていたけれど、あんなに華やかな雰囲気はなかったよ。あの頃は髪も黒髪のストレートで大人しくて自己主張が苦手な奴だったんだ」

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