99 / 140

第99話

 やっと俺の名前を口にした水無月の柔らかな髪に指を差し込んで、それから背中をぽんぽんと優しく叩く。 「怒鳴ってごめん。怖かったんだよな」  ふ、と彼が俺の腕のなかで小さく息をついた。緊張で強張っている肩や背中を小さな子供をあやすようにさすって、 「大丈夫。あのガキならもう来ないよ。それに俺はあんたの専属湯たんぽだろ? 水無月さんが気の済むまでこうしてやるから、もう他の男は調達しないでくれよな」  両方の腕に少し力を入れた。彼は体を小さく丸めて俺の胸に収まっていたが、やがて微かに頷くと、ふうぅと息をついた。  その甘い吐息が俺の鼻腔に仄かに香って、じわりと胸の奥に染みていくのが何故かとても心地よかった。

ともだちにシェアしよう!