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第102話

(やっぱりそうか)  俺は水無月の首筋を舐めながら彼の肩越しに地上へ視線を落とす。冷たい雨を避けるように早足で青信号を渡る傘の群れ中に一つだけ、その場から動かない黒い傘が居る。 (傘の陰に隠れて俺達を見てやがる)  俺は胸をまさぐっていた手を離すと、彼の下顎を掴んで後ろへと振り向かせた。木崎君、と怯えたように俺を呼ぶ水無月の唇へと顔を近づけて、重なり合う直前まで落とした視線の先を窺っていると……。  一瞬、雨を受けていた傘が跳ね上がる。ちらりと見えたその顔を俺は網膜にきつく焼き付けた。  ぴたり、と直前で動きを止めた俺の唇に水無月の吐息が温かく吹きかけられる。そのコーヒーの香りが混ざった息から俺は顔を引いて、戸惑いと怯えで細かく揺れる瞳を覗き込むと俺は水無月に笑いかける。

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