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第109話

 取り敢えず俺はびっくりした表情で、「佐竹さん、どうしたんすか?」と惚けて聞き返した。佐竹さんは一瞬体を強張らせると、「何でもない」と苦々しく吐き捨てた。 「まあ、さっきのは冗談ですよ。分かってますって、佐竹さんの言いたいことは」  ああ、と頷きながらも佐竹さんは不満顔のままだ。俺はわざとらしく背伸びをすると、 「佐竹さん、水無月さんの宿泊している部屋を教えますから、話をしたければ訪ねてみたらどうですか?」  瞬間、佐竹さんの瞳が忙しなく游いだ。だが、直ぐにその揺らぎは治まると、 「……別にいいよ。あいつも俺と会いたくはないみたいだし」  そう言うと佐竹さんは喫煙室から出ていった。俺も煙草の吸い殻を灰皿に落とそうとして、ふと、ここで初めて水無月に会った時の言葉を思い出した。 『同じ銘柄を吸っているのか』  ――なるほど、そういうこと、ね。

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