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第3話
「ボク、ハ、ジテンシャニノッテ、エキマデ、イキマス。
ボク、ハ、マイニチ、ジテンシャニノリマス……、マエハラサン」
「なんだ?」
「コノタイセイ、ジャナイト、ダメ?」
後ろを振り返り、前原の顔を覗く。俺は日本語のテキストの音読を前原に見てもらっている。しかしソファの上で、前原に後ろから抱えられながらなのでどうも落ち着かない。
「だーめ」
「オチツカナイ……」
前原はヤクザという割には人がいいというか人が良過ぎる。朝から夕方まで働いて、帰ってきた後は約束通り俺に日本語を教えてくれている。俺の見た目がそんなに好きなのか?なんとご飯まで作ってくれる。料理は元から好きなようだが、俺がほとんど料理を作れないと知ると、しばしば俺に教えながら料理を作ってくれる。
「集中しろよ、いやらしいこと考えてっから落ち着かねえんだよ」
「チガウ!……モウ!」
怒ってテキストに向かい直すとクスクスと前原の笑い声が聞こえてくる。
「ボク、ハ、エキマデ、アルイテ、ムカウマス」
「向かいます、だよ」
「ボク、ハ、エキマデ、アルイテ、ムカイマス……ウーンムズカシイ」
「お前は何歳まで日本に居たんだ?」
「ロク……ムッツ?マデ」
「それからずっと中国にいたのか?」
「ソウ……」
中国では常に命を狙われていたし、俺も常に誰かの命を奪っていた。心休まらない日々。妹の茉莉花が殺されてからは、父親から全てを奪い、苦しめながら殺すことばかり考えていた。
「チュウゴクニハ、アンマリ、ヨイオモイデナイ」
俺の表情が暗くなったので何かを察したのか、前原は黙った。
「デモ、コレカラ、ニホンデ、オカアサンサガスシテ、アウコト、タノシミ」
俺の人生の唯一の希望。それが六歳の時に生き別れになった母親だ。父親は母親から無理に俺たち兄妹を奪うと中国に連れて行った。
中国。広大な大地で俺と妹はお互いを支え合いながら生きていた。二人ともその頃から父親の仕事を手伝わされ始めた。暗殺や謀殺は子供にやらせるのが一番相手を油断させることができるから、と。初めて人を殺したのは俺は八歳の時だった。殺さなければ父親に殺されるよりもっと酷い目に遭わされるから、あの頃は必死だった。それから妹は帳簿の管理や十歳を過ぎてからは口にするのも悍ましい事をやらされていた。そういう愛好家共に玩具にされていた。しかし俺たちはお互い身を寄せ合って苦難の日々を乗り越えていた。
俺は次期頭目としてあらゆることを叩き込まれた。中華マフィアの勢力図は日々書き換わるが、それを常に把握していないと命取りになるから把握するのに必死だった。真っ当な勉強なんて何一つ教わらなかったが、人がどう動き、人をどうすれば操れるのかを徹底的に身につけさせられた。俺は何一つ俺の意思で動いてはいなかった。父親の思うまま、父親の意思を継承した次期頭目として人形のように生きていた。
それが変わったのは、あの日、妹が恋をした日からだった――
「ソロソロ、ゴハン、タベヨ」
「ああ、今日はハンバーグだから後は焼くだけだ。一緒にやろう」
「ウン」
こうして、誰からも命を狙われず、安定した生活を送れているので前原には感謝しかない。そもそもヤクザがずぶ濡れの男を拾って甲斐甲斐しく世話をするなんて想像もしなかった。ヤクザがお人好しなのか前原が特別なのかはわからないが、今の生活に俺は満足している。しかし前原もそのうち組のトップになるということは、所帯を持ち、子を成す必要があるだろう。俺がこの居心地の良い場所にいられるのはそれまでだと肝に銘じておかなくては。
ジュージューという音とともにいい匂いをさせてハンバーグが焼き上がる。前原の特製ハンバーグはスパイスが適量使われており、香りが非常に良い。またひき肉も上質なものをこだわって使っているからだろう、油っぽさもあまり感じない。
俺は中国にいた頃は特定の信頼できる部下に作ってもらった料理しか口にしなかった。常に毒殺の恐怖に怯え、警戒していた俺がのほほんとハンバーグが焼けるのを待っているなんて我ながら信じられない。尤も、前原の方は以前の俺と同様に信用している部下に作らせるか、自分で作るかしかしないのでまるでかつての俺をみているような気持ちになる。だから俺は日本語もそうだが料理も覚えて前原に食べさせてあげたい、と思うようになった。だから料理はなるべく一緒に作るようにしている。
前原が買ってくれたお揃いのエプロンを着て並んで台所に立つとまるで恋人同士のような気分になるが、俺はあくまで前原の気まぐれで拾われただけ、いつか前原と別れる日が来ると自分に言い聞かせならも、その幸せに浸るのだった。
ハンバーグが出来上がり、サラダと副菜に作り置きの人参のグラッセをとりわけ、食卓につく。リビングのテーブルに向かい合わせに座り、「いただきます」と手を合わせて食べ始める。ハンバーグは肉汁がたっぷりで、ハンバーグを作った後のフライパンで作ったケチャップとソースと赤ワインを混ぜたソースが絡み付いて美味しい。程よいスパイスの香りも食欲をそそる。人参のグラッセも甘くて箸休めにちょうどいい。
俺はあまり食べる時に話す習慣がないが、前原はそうではないようで、積極的に話しかけてくる。
「ハンバーグどうだ?うまいか?」
「オイシイ……」
「にんじんのグラッセは?苦手じゃねえか?」
「ニガテナイ、オイシイ」
「今度お前が作ったハンバーグも食べてみてえな」
「ガンバル!」
そんな会話をしていると前原のスマートフォンがなった。
「悪い、仕事の電話だ」
「ドウゾ」
前原は食卓を離れ、何やら会話している。数日間前原を見ていたがヤクザというよりもビジネスマンと言った方が近い。株や先物取引で利益を出しているようで、武器やクスリには手を出していないようだ。末端組織にはチンピラもいるのだろうが少なくとも前原の周りにそう言った気配はない。過去自分が武器からクスリから殺人まで請け負っていたことを考えると若干の負い目のようなものを感じるが過去は変えられないし、その時その時の自分の選択に後悔はない。
電話が終わった前原は若干気が立っているようだった。どうやら仕事上でトラブルがあったらしい。
「ダイジョウブ?」
「……ああ、皓也が心配することはねえよ」
「ボク、マエハラサン、シンパイ」
「……ありがとうな、皓也」
夕食を食べ終わって、片付けの後、前原はまた俺の日本語学習に付き合ってくれた。またソファで後ろから俺を抱きしめるようにして座り、俺が音読する日本語を聞いて、たまに間違いを指摘してくれる。
「キョウ、ハ、ハンバーグヲタベルシマシタ」
「食べました、だ」
「キョウ、ハ、ハンバーグヲタベマシタ」
「ハンバーグは美味かったか?」
「ハイ、トテモ、オイシカッタ、デス……?アッテル?」
「合ってるよ、よくできました」
褒められて上機嫌で後ろを振り返ると前原も穏やかな表情になっていて安心した。俺にできることは何もないから、せめて一緒にいる時に穏やかな気持ちでいてほしい。
「アシタ、ハ、カイモノニ、イキマス……チョットマエハラサン」
「うん?」
前原が後ろから手を伸ばし俺の腹筋を撫でている。怪我の治療痕が若干残る腹筋周りを軽く、しかし感触をしっかり確かめるように撫でる。
「クスグッタイ、ヨ……」
「気にせず続けろよ」
「ウーン……キノウ、ハ、ビーフシチュー、ヲ、タベマシタ……、っ」
前原の手が腹筋から上に伸び、俺の乳首を弄り始める。
「マエハラサン……っ」
「ほら、集中しろ」
「キノウ、ノ、ビーフシチュー、モ……っ、オイシカッタ、デス……っ」
前原の両手が乳首を弄る度腰に熱が溜まっていく。俺は後ろを向いて、「イジワル……ッ」といいながらキスをせがんだ。
「全く甘えん坊だなお前は……ベッド行くか?」
「マエハラサンノセイ!……ベッド行く」
ベッドへ行くと前原は俺の服を脱がせながら自分も服を脱ぐ。一日仕事をしていた前原からは精悍な雄の匂いが漂っていて、それを嗅いだだけでもうだめだった。
「マエハラサン、キョウハ、ボク、スル……」
俺は前原を押し倒すと既に隆起している中心に舌を這わせた。風呂上がりのセックスでは感じない濃厚な雄の匂いに後孔がキュウウとなる。そのまま幹の部分を舐めて濡らして、思いっきり先端から咥えた。先走りと唾液が俺の顎を伝う。舌で先端を舐りながら口全体を使って吸い付く。
「……っ、随分と上手じゃねえか……」
と言われたので、
「マエハラサン、コウシテクレルト、ボク、キモチイから……」
と前原を見上げながら言う。
「随分とそそるな……オイ。お前の尻こっちに向けろ」
「ソレハダメ……、ハズカシイ……」
「いいから」
そう言って半ば強引に尻を前原の顔の上に移動させられると、前原の下が後孔に挿入された。
「あ、んんん、ダメ、」
「ほら、口止まってるぞ……」
「んんん、はぁっ、んんん、あっ」
前原の舌先が全て俺の後孔に挿入され、クネクネと動かされるたびにむず痒いような妖しい感覚が俺の腰をもぞもぞさせる。そして前原はベットサイドのローションを取ると俺の後孔に塗り込み、広げた。
「あ、んんん、それ、だめぇ……っ」
以前ローションを買って初めて使った時、気を失うくらい乱れてしまったのでなるべく使わないで欲しいとお願いしているのだが、前原は全く聞く耳を持たない。
「もっと奥まで咥えろ……ほら」
「んんん、ん、あぅ、やぁっ、モ、ダメ、イレテ……」
「ちゃんとおねだりできたらくれてやるよ」
俺は尻の肉をかき分けて前原に見せつけ、「マエハラサンノ、オチンチン、チョウダイ……」とねだった。
前原は寝そべったまま、俺に自分で入れろと命じた。
「デキナイ……コワイ……」
「じゃあくれてやらねえ」
「うう……」
俺は恐る恐る前原の屹立の上に腰を落としていく。ローションの滑りを借りて比較的スムーズに腰を落とすことができた、が、一点を過ぎるとこれ以上腰が落とせなくなってしまう。これ以上、奥に入れられたら、狂ってしまうほどの快楽に襲われることが分かっているからだ。
「オイ、まだ全部入ってねえぞ?」
「ダッテ、コレイジョウ、イレルシタラ、オカシク、ナル……っ」
涙目で訴える俺の腰を掴んで、無常にも最奥まで一気に貫かれた。
「あ、あ、ああーっ」
その勢いと快楽で押し出されるように射精してしまう。
「あっ、ゴメンナサイ……デチャッタ……」
「いい、もっと沢山乱れて見せろ」
そう言って前原は下から突いてきた。ズン、ズンと下腹部の奥まで響く快楽に俺も思わず腰を淫らに揺すってしまう。ちょうどいいところに当たりすぎると気持ち良すぎて怖いので、腰をにがそうとすると前原の手が強く腰を掴みそこから徹底的に追い詰めてくる。それでも腰を動かすのをやめられない。
「オイ、繋がってるとこ見せてみな……」
「ハズカシイ……」
「そうしないともっと激しく突くぞ?」
「うう……」
俺は腰を浮かせ、前原に結合部が見えるような姿勢をとった。さらに尻の肉をかき分けて前原との結合部を見せつける。
「エッロ……最高」
「あっ、ダメ、デチャウ……!」
特に突かれてもいないのに俺はその姿勢で達してしまう。
「恥ずかしすぎてイったのか?可愛いな」
そのままの姿勢で前原が突き始める。
「ダメ、デタバッカリ、デ、ソンナ……ッ、ああっ」
ピュピュッと連続で射精を続ける俺に前原はご満悦のようだ。
「すげえ連続でイキっぱなしかよ……っ、後もすげえ締まる……!」
「あっ、ああああっ、トマ、ラナイ……っああ、んんっ」
「俺も限界……中に出すぞ……っ」
「マエハラサン、ナカ二、ダシテ……っ」
俺がイキっぱなしの中、前原はより一層強く下から突くと、俺の中に射精した。結合部が見えるような姿勢で交合していたので俺の中から溢れた前原の精液を前原に見せつける格好になる。
「すげえエロい……俺のが溢れてる……」
「うう、あっんん」
それでもイキ続けるのが止まらない俺に前原は言った。
「後ろから突きてえ」
そう言われ、四つん這いにさせられたが、体に殆ど力が残っていない俺は上半身がペタリとベッドに突っ伏してしまう。結果尻だけを高く上げた状態になり、それが前原を余計に煽ったようだ。
「いい格好してんじゃねえか」
「や、……も、ハヤク……入れて」
尻肉をかき分けてさらに孔の奥まで外気に晒すように広げると先程放たれた前原の精液がどろり、と溢れる。
「煽るのが上手くなったじゃねえか……」
ズン!と一気に奥まで刺し貫かれる。
「あーっ、」
それでまた達してしまった。今日は何回達したかわからない程だ。
「も、……ムリ……シンジャウ……」
「そうか?ここは元気にイキっぱなしみてえだけどな」
「うう、あっ」
前原はそういうと激しく攻め立ててくる。ぐるりと中を蹂躙し、感じる最奥を暴力的なまでの激しさで突いてくる。
「あっ、あっ、やっ……っ」
「後も前もドロドロじゃねえか……っ」
「はぁっ、や、やあっ」
「クッソ……俺も保たねえ……っ」
「あっ、ああんんん、きもち、い……っ」
「出すぞ、……っ」
「オクニ、して……ッ」
そう言うと前原は俺の最奥に放った。さっき放った分もあり若干お腹が張るような感覚にまで感じてしまう。前原は結合を解くと俺を抱き寄せ、長い長いキスをした。
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