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第5話

 今夜の夕飯は何にしよう?カレーと肉じゃがとハンバーグは教えてもらったからできるけど毎日それじゃあなあ……ネットでレシピを検索してみても何が正解かわからない。大人しくまたカレーにすることにした。前原の部下にカレーの材料を買ってきてもらい、カレーを作り始める。  カレーのルウは二種類混ぜるとより美味しいと前原が入っていたのでルウを二種類用意した。肝心のカレーの具は、もう初夏の気配が漂ってきたので夏野菜でにしてみることにした。人参、じゃがいも、玉葱のオーソドックスなカレーに茄を足しただけだが。以前茄は灰汁を抜かないといけないと前原が言っていたので乱切りにして灰汁を抜く。灰汁抜きについては俺自身もよくわかっていないが、どうやら味にかなり違いが出るらしい。  その間に玉ねぎを飴色になるまで炒める。これは重要な工程だと前原が言っていた。気を抜いて調理しているとあっという間に玉ねぎが焦げてしまうので、丁寧に飴色になるまで炒めないと味を大きく損なうらしい。そして鶏肉と他の野菜を炒めて、分量通りの水とルウを入れて煮込む。その間に炊飯器のスイッチを入れ、夕飯の準備は完了だ。  今日は前原は何時に帰ってくるのだろうか。最近の帰宅時まばらだが、特にこちらから問い合わせたりはしないのでわからない。前原の性格上、帰宅時間がわかる時は連絡してくるだろうから、連絡がないときにこちらから連絡しても意味はない。  俺は十九時過ぎに自分の分のついでに前原の部下を誘って夕飯を取り、一食分残して冷蔵庫へしまった。もし前原の帰宅が遅くなった時には明日の昼食にすれば良いだけの話だ。  夕飯の後片付けをし終わって二時間ほど日本語の勉強をしていると前原が帰ってきた。今日は一段と憔悴した様子で、無言で冷蔵庫からビールを取り出すとそのまま一気に煽り、書斎でパソコンを開いてメールを作成し始めたので、冷凍枝豆を解凍したものと追加のビールを持って行って、特に声はかけずに勉強を再開した。  深夜零時を過ぎて、俺は風呂に入って先に寝ることにした。常駐の前原の部下に声をかけて、風呂に入り、寝室で寝る体勢に入った。書斎からはわずかにメールを打つ音や電話で話す音が聞こえてきた。それを聞きながらゆっくりと眠りにつく。  数時間後、殺気で目が覚めた。この感覚が自分に染み付いていることに驚く。間違いなく狙われている、静けさと空間に漂う熱。ベッドから素早く身を起こすと前原はまだ書斎にいるようでベッドにはいなかった。手早くスーツケースの内側の布のさらに内側に隠していた分解した自動拳銃ベレッタを素早く組み立て、装弾すると、それを腰に挟み書斎へ向かった。  書斎では前原はメールを打っていた。スリッパも履かずに急いできた俺に驚きつつ「何があった?」と聞いてくる。 「なんか嫌な予感がする。静かすぎるんだ……部下に見回りするように伝えてくれないか?」 「……毎日緊張した生活だったからな、怖がらせてすまない」 「そういうコトジャナイ、ノ!ハヤク見回りヲーー」  言いかけたその刹那に、玄関でどさっと誰かが倒れる音がした。 「今の音ーー」 「静かニ……消音器付きノ銃カ刃物ト、オモウ」  玄関の扉が開く音。ここはタワーマンションの最上階なので窓から逃げるという選択肢はない。逆に言えば、余程の装備がなければ敵が窓から来るということもないのだが。なので侵入は玄関からのみを想定して見張りは玄関を中心に配置されていたはずだ。しかし玄関の扉が開いたということは、その見張りは倒されたということになる。  複数人の見張りを倒したということは、相手も複数人である可能性が高いだろう。  ここは玄関から続く廊下の途中の書斎だ。電気はもちろんつけっぱなしなので今から隠れて待ち伏せすることは不可能だろう。深夜帯は玄関のほかにリビングにも見張りがいるはずなのでまず襲撃者はリビングの見張りとかち合うだろう。  俺は状況を前原に伝え、前原の判断を仰いだ。もちろんベレッタのことも伝える。 「ボクは、色々アッテ今ベレッタをモッテイル、デス。理由はアトでセツメイシマス。指示を下さい」 「何故……?いや、お前は寝室で隠れていろ、外には出るな」  前原はそれでも俺に寝室で待機するように命じ、一人でリビングへ向かうといった。俺は前原の判断を尊重し寝室で待機することにした。前原にしてもどれくらいの戦力になるかわからない俺を使うよりは、待機させて巻き込みたくないということなのだろう。  息を潜めて、いつでも駆け出せるよう体勢を整えて耳を澄ませる。熱が、殺意が近づいてくる。複数名、そこそこ手練れだ。  リビングからは何人かの男たちが揉み合う音が聞こえてくる。リビングの見張りの力量と相手の武器にもよるが、おそらく状況は厳しいだろう。しかしまだ血の匂いはしない。どうするべきか?血の匂いがし始めたら前原はすでに死傷していて手遅れになる可能性がある。こういう時は感覚に頼るしかない。俺がずっと過ごしてきた黒社会で身につけてきた感覚はーー今すぐリビングに行け!と告げている。  足音を殺してリビングへ向かう。リビングの扉は閉まっていた。この扉は一般的なもので、どんなに工夫しても開閉時に音がなってしまう事は調べていたので、一気に開けることにする。  ダアン!扉を蹴破った俺はベレッタを向けてリビングへでた。状況はーー  侵入者は六名、前原の部下は倒れている。そして前原は拘束されている。相手の武器はトカレフ三丁とナイフ。前原は抵抗せず拘束されたらしい。武器を持っていないのであれば賢明な判断だと言えよう。 「誰だてめえ!?」 「こいつぁ、確か前原が囲ってる男娼だ……どうしたお嬢ちゃん?そんなモン持ってちゃ危ねえぞ?」  侵入者たちは笑っている。俺は素早くリビングのソファにあるクッションを引ったくると、消音装置の代わりにそれを銃口に当て、トカレフを持っている奴らの手元目掛けて三発銃を撃った。クッションの中身の羽毛が宙を舞う。 「……っ!?」  トカレフは三丁とも地面に落ちた。血の匂いで空気が変わる。ああ、戻ってきてしまったか。血と硝煙の芳しいこの世界に。 「コンバンハ、前原さんのコウソクをトケ」 「お……おい、こっちには刃物が……」 「僕ハ、十秒アレバ、ココにいる全員にヘッドショットヲ……スルコトガ、できる。 名誉ガホシイならタタカエ、戦死トイウ名誉をクレてやる」  淡々と事実を述べると、 「こ、こっちには人質がいるんだぞ!?」  リーダー格と思われる奴が前原の首筋に震える手でナイフを当てる。 「オマエが、前原さんのクビヲ切ろうと決断シタの瞬間、お前の頭ハ吹き飛ぶ。  イイカ、今すぐ前原さん解放スル」  脅しではない、平常心での殺害宣言に相手の心が折れるのが手に取るようにわかる。 「……くっ」  そう言って男は震えながら前原を解放した。 「前原さんダイジョウブ?この後ハ前原さん二マカセル。この人達コロスなら手伝い、スル」 「……いや、いい……どこの組織のもんだ、お前ら」 「……」 「答えろ!」  前原が恫喝すると二次団体の名前を出した。前原はリーダー格に名前を聞き、電話を入れる。 「……夜分に失礼する、お宅の若い連中がウチに遊びにきているから引き取ってもらいたいのだが。知らない?知らねえじゃ済まされねえっつってんだ!早く引き取りに来い!」  下腹に響く声で思い切り怒鳴りつける。  電話を切ると前原はトカレフを取り落とした三人を見て「とりあえず手当は必要そうだな……」と言う。俺は、「死には、シナイ。コロスつもり無いから、シナナイように、した。手当、必要ナイ。部屋汚してゴメンなさい」と答えた。すっかり意気消沈した侵入者たちは俺たちの会話を聞いて顔面を白黒させている。  とりあえず迎えがくるまで俺は部屋を警戒し、迎えが来た後は前原に任せて寝室に戻り、トカレフを分解清掃し、着ていた洋服に返り血がついていたのでそれを消毒薬のオキシドールでもみ洗いし、洗濯かごへ入れた。念のため二度目のシャワーを浴びると事後処理に当たっていた前原も戻ってきた。すでに明け方の四時。すっかり疲弊している様子だ。 「前原さん、リビングの掃除はボクがスルのだから、お風呂入ってネテね」 「……いや、ちょっと来い」  そう言われて寝室に引っ張られ、ベッドに押し倒される。 「前原さん……ドウシタノ?……んぅ……」  急に深いキスで口を塞がれ、口腔内を蹂躙される。 「ん、うぅ……前原さん……?」  汗と雄の渇望の匂い。それだけでクラクラしてしまう。前原は俺の服を全て脱がせると、うつ伏せにし、ベッドサイドのテーブルからローションを取り出した。性急な動作にこちらは戸惑いつつ、情欲が高まっていくのを感じる。気がついたら何の愛撫も施されていないのに俺の中心は頭をもたげていた。  前原はローションを俺の後孔に塗り広げてきた。ぐるりと中をかき混ぜられ、声が漏れる。前原は俺の感じるところを刺激しさらにローションを馴染ませる。 「あ……、っ、ううぅ……っ」  とにかく全てが性急だ。前原はズボンの前を寛げるとそのまま一気に奥まで刺し貫いた。 「あ!……っ、あっ、あっ」  そのまま律動を開始し、あっという間に俺は上り詰めてしまう。乳首や前への刺激がなくても達してしまいそうになる。 「前原、さ、ん、……僕、も……っ、デチャウ……っ」  そう言うと前原は俺の性器を手で包んで扱いてきた。これではひとたまりもない。 「あっ、ああっ、でちゃ……ああっ!」  俺が達すると、後ろを激しく締め付けてしまい、前原も呻き声をあげて達した。しかし前原の硬度は失われず、繋がったまま俺をひっくり返すと正常位の体位で再び攻めて来た。激しさは変わらず、深く口付けながら性急に攻め上げる。 「ん、うう……はぁっ、あ、あ」  シンとした室内に響くのはいやらしい水音と腰を打ち付ける音、そして互いの息遣い。 「ほら……っ、さっき出したのが描き出されてるぞ?……っ」 「や、あ……っ、マタ、イッパイに、して……っ」 「煽るな……っ」  そう言うと前原の律動がより激しくなり、一気に快楽が押し寄せてくる。 「あああ、やっ、モウ、だめ……っ」 「さっきの冷徹さが嘘みてえだな……っ、こんなに足広げて腰振りやがって……っ」  さっきから前原の律動に合わせて自分も腰を振っていることを指摘されると羞恥で後孔がきゅう、と締まるのを感じる。 「や……ぅ、ああ、キモチ……っ、からぁ……っ」 「もっとよくしてやるよ……っ」  そう言うと前原は俺の両手を引っ張ってより深く互いの体をつなげた。 「あああ……っ」  そのまま激しく律動されると奥深くがぐぽぐぽと出し入れされてたまらない。前原の顔を見ると情欲にまみれた雄の顔になっており、それを見た俺は一瞬で上り詰めてしまった。 「あ、あっ、あっ、やっ、も、デル……っでちゃう……っ」  そう言われた前原は深い口付けをし、一層腰を強く打ちつけた。俺は激しく達し、前原も俺の最奥に熱い精液を放った。  シャワーを浴びた後、前原は「流石に今回のことで、お前について聞かなくちゃ何ねえ」と切り出した。 「ウン……僕考えたんだけど、僕は実は前原さんがコジンテキに雇ッタボディガードってイウコトにシナイ?」 「……お前が何者か話す気はねえってことか?」 「…………僕はタシカニ中国の黒社会ニイタ。でもハナセルノハコレだけ。僕が僕デアルタメには……ハナセナイ。桐谷 皓也は、一般人だから……ちょっと強い一般人ッテコトにシテオカナイト、ダメなの、ゴメンなさい。  素性が知れないやつをオイテオクノガ不安ナラ、僕は……出テイク」 「…………」  前原は考え込んでいるようだった。 「尋問シテも僕はハナセナイ……お願いダカラ桐谷 皓也トシテここにイサセテ?」 「……わかった。お前の今までの挙動からも……うちの組になんかあって近づいてきたんじゃねえってことはわかってるから、組にはそういう説明をする。俺も……お前がそういうなら納得するしかねえ……」  前原がそう言って俺を抱きしめてきた。お互いに、じゃあ、と別れるには深く繋がりすぎた。身体も心も。そんな抱擁だった。 「しかし本当だったのか?あの場の全員を殺せるって」 「僕はイエナイ事はアッテモ嘘はツカナイヨ前原さん」 「……そうか」  そう言って何故か俺の頭を撫でてくれた。俺が今まで過ごした過酷な日々を少し想像してしまったのだろうか? 「まあ体についてる傷の痕から普通の人生は歩んでねえとは思ってたが、ここまでとはな、でもまあ……離れられねえんだから、仕方ねえよなあ」  そうひとりごちて、俺に口付けをした

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