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第8話

 最近の恭介はどことなく焦っている。仕事が忙しいと言うわけではなさそうだが、俺といてもどこか落ち着かない素振りで指で机をトントンと叩いたりして落ち着きがない。どうやら見合い話が結構な確度で進められているらしい、とは恭介の部下たちの立ち話を聞いていて仕入れた情報だ。  ある程度の立場のヤクザにとってこれは避けられないのだ、という諦めと、恭介を独占したいという気持ちの間で揺れる俺は、しかし何もできずにいた。  肝心の恭介はどう言うふうに対応しているのか、とか恭介は結婚するつもりがあるのか、とか聞きたいことは山ほどあったが、その答えを聞くことすら怖くて聞けずにいる。  なんとも俺らしくない。  以前の俺ならば恭介をぶん殴ってでもどう思っていてどうしたいのか吐かせるところだ。ただ以前の俺には恭介ほど感情を持っている人間はいなかったが。  段々と蒸し暑くなってきた季節の昼間、恭介がいない間にいつものように冷房を効かせたリビングで日本語の学習をする俺はどうしたものかと考えあぐねていた。見合いがどう言う相手かで対応は変わってくるが、ここまで恭介を焦らせていると言うことは断ると相当マズイ相手なのだろう。おそらく恭介のシノギにいっちょかみをさせろとっていた幹部が嫌がらせでお見合い相手をぶつけてきたのだろうから、幹部の誰かの孫娘あたりだろう。これを断ってしまうと相手の面子を潰すことになり、内部抗争がおきかねない。恭介はそれを危惧しているのだろう。  冷静に恭介が取れる行動を考えると、見合いを受けて結婚して、相手が許せば俺を愛人にするか、いっそ組を抜けるかだ。恭介はどちらにも転ばないようにあの手この手を考えているだろうがおそらく無駄であろう。  俺は今まで恭介の回答が怖くて聞けなかったことを聞こうと思う。恭介が俺をどう思っているか、俺と組のどちらを取るかを。  恭介の帰宅はいつも通りの時間だった。今日の夕飯は海鮮焼きそばとブロッコリーのサラダとわかめと豆腐の味噌汁にした。そろそろあっさりした味付けのものがいいかと思って海鮮焼きそばにしたが、正解だったようで、恭介は美味しい美味しいと食べてくれた。まあいつも恭介は俺の料理を美味しいとしか言わないので評価は当てにならないが。  夕飯を食べ、晩酌用のビールと枝豆を出し、二人で飲む。今日も帰ってきた時は焦りが見えていた恭介だったが、この頃になるとだいぶ表情は穏やかだ。  俺は今だと思って切り出すことにした。 「……恭介、お見合いの話、ドウするの?」  俺からこの話を切り出された恭介は若干気まずそうな顔をして答えた。 「先方に穏便に断りを入れているところだ」 「穏便ニ?」 「幹部の孫娘さんだからキッパリとは断れなくてな」 「穏便に言えばなんとかなりそうナノ?」 「……」 「……恭介は結婚するノ?」 「それはしない。絶対に」  俺の目を見て言う恭介は本気の様だった。どうやら結婚して俺を愛人にするつもりはないらしい。 「でも穏便ニ話しても解決しないんじゃナイ?」 「それは……」 「交渉の余地はアルノ?断ったらどの道抗争は避けられないんじゃナイの?  結局シノギに噛ませるのが嫌で見合い話になったんだから、シノギに噛ませるか、見合いを受けるかしないと相手は納得しないヨね?」 「シノギに噛ませることは……できない。おそらく奴らを噛ませた段階で滅茶苦茶になっちまうだろう」  俺の詰問にも冷静に答える恭介。この程度のことは既に彼の中で結論が出ているんだろう。 「……そのシノギって合法化デキナイ?」 「やろうと思えばできるが……何故だ?」 「合法化すれば少なくとも噛ませろと言ってくる奴らを牽制デキル」 「それはそうだが……」 「恭介、ドウシテヤクザになったの?」 「それは、話すと長くなる……」  俺が俺の人生について語れないのに恭介にだけ話させるのは不公平だとは思ったが、どうしても聞いておきたかった。 「話しテ」 「……俺には六つ歳の離れた兄がいた。小さい頃から優秀で、俺の親が医者だったから、親は兄を医者にしたがった。でも兄は弁護士になって困っている人を助けたかったんだ。でも親は反対して……結局精神科医になれば医師にもなれるし困っている人を助けられると兄は決断し、T大の医学部から精神科医になった。俺は特に何も期待されていなかった分、兄貴の代わりに弁護士になってやろうと思ったけど、兄貴ほど優秀じゃなかったから二年浪人してT大の法学部へ入った。そこまではうまく行っていたんだ。  兄貴は大学時代から付き合っていた彼女と結婚し、子供……俺の甥っ子が生まれて仕事も順調そうだった。俺は大学四年で就職先も決まっていた……  でも兄貴は優しすぎたし、幼い頃から両親の期待を一身に受けて育ったから精神的に脆いところがあった。一方で優秀だった兄は難しい状態の患者をたくさん任されていた。これは後から知ったことだが……  俺の大学の卒業式の日、来てくれるはずだった兄貴とその家族が来なかった。不審に思った俺と両親は兄貴の家へ行った……そこは地獄だった。  兄貴は妻と子供を殺して無理心中をしていた。まだ言葉も話せない自分の子供と妻を手にかけたんだ!兄貴は仕事の重圧に耐えられなかったらしい。そもそも精神科医に向いていなかった、患者の皆を救えなかったと遺書にあった。  俺は兄貴を無理に医者にした両親がどうしても許せなくなって……兄貴の代わりに俺が弁護士になってやるって粋がってた自分が許せなくて……兄貴の心の痛みをわかってやれなかった自分と親を許せなくて、決まってた就職先をばっくれて新宿でずっと飲んだくれてた。  その時に今の組長に「頭がいい奴が欲しい」と言われて、言われるがままにヤクザになったんだ」 「ヤクザやってて楽しイ?」 「新しいシノギを自分で作って金儲けして忙しくしてるのは……楽しいっつーか気が楽だな。兄貴のことを考えなくてもよくて、金も手に入るともっとでかいことができるともっと忙しくなるから……そう、楽なんだ」 「……恭介、ヤクザ、辞めなイ?僕は、恭介はお兄さんの死と向き合うことが必要だと思う。僕も妹を亡くしたカラわかる……忙しさで忘れている様でも心のどこかはずっと傷んでいるンダ……  今回の件、恭介のシノギを合法化できるところはして、あとはヤクザを辞めたらいいとオモウ」 「……少し考えさせてくれ……」 「僕はヤクザの組抜けについてあまり知らないけれど、確か指を切ル?」 「俺のポジションだとそれくらいじゃ済まねえだろうな」 「……もし恭介のシノギが合法化できるなら、警察……公安に情報と交換で前歴を抹消してもらうことがデキル。僕はそうして桐谷 皓也になった。仲間を売るコトにはなるけど……」 「……すぐには答えは出せない、が……もしそうなったら、お前がどう言う風に生きてきたか教えてくれるか?」 「……本当はダメだけど恭介になら教えるヨ……」 「そうか」  俺の生きてきた人生。陰惨で血と硝煙と暴力が大半の。でも恭介のおかげでようやくまともに「生きる」ってことができた。だから恭介には教えよう。全てが終わり、落ち着いたら、少しずつ。  湯船に湯を張り、体を洗ってから浸かる。恭介は今日も俺を後ろから抱きしめながら湯船に浸かっている。俺の肩に顎を乗せ頸の匂いを嗅いでいる。 「洗ったばっかりだから何の匂いもしないデショ?」 「……いや、皓也の匂いがちゃんとする……」 「そうナノ?」 「ああ……いい匂い……ちょっと興奮してきた……」  そう言いながら恭介は兆した性器を俺の尻に押し当ててくる。 「恭介、もお、遅い時間ダカラ……」  恭介は頸を舐め、甘噛みしながら俺の乳首も触り始める。そうされると俺も勃起してしまい、何を言っても説得力が無くなってしまう。 「恭介、あ……あ」 「皓也も感じちゃってんじゃん……」  恭介は俺を湯船から出すと浴室の壁に手をつくように言った。俺は恭介を誘うように壁に手をついて腰を突き出す。 「いい格好だな……」  言いながら恭介は風呂にもおいてあるローションで俺の後孔を慣らしていく。最初はやや冷たかったローションも体温で流動性を増し、太ももから滴ってくる。恭介はそんな俺の様子を視姦しながらさらに奥まで慣らしていく。  奥まで恭介の指が自在に動くほどの柔軟性が出てから、恭介が先ほどよりだいぶ育った性器を俺の後孔に挿入する。ミシミシといつもながら圧倒的な存在感のそれを俺の後孔は受け入れ、飲み込んでゆく。 「あ、あああ……っ、おっきい……あっ」 「皓也のせいでここまででかくなったんだから責任取れよ」 「あっ、あっ、あっ」  律動が始まると俺は必死に壁についた手に力を込めて倒れ込まない様にする。恭介のカリの部分がいいところに引っ掛かるように腰を動かす俺はさぞかし淫らな動きをしているのだろうと想像するだけでさらに興奮する。  恭介は俺の性器を手で愛撫していたが、何を思ったのかシャワーヘッドを俺の性器に当たるよう位置を調整し、水流を当ててきた。この家のシャワーヘッドは水流の切り替えが可能で、恭介は一番強い水流のマッサージモードにして俺の性器へ当ててきた。 「ひゃっ、う、あっ」  強い水流は俺の尿道を逆流するような勢いで俺の性器を攻め立てる。 「やっ、きょうすけ、これ止メテ……っ」 「気持ちいいだろ?中がすげえ締まってる……っ」  中の恭介をかなり強く締め付けてしまっている。その分摩擦が増え、カリの引っ掛かりも大きくなり、俺はあっという間に射精しそうになった。  しかし強い水流がフタのような役割をしていて射精したいのにできない。 「恭介、ぇ、だしたイぃ……っ」 「いつもすぐイっちまうんだから、それでしばらく我慢してろ」 「や……っ、だしたイ、恭介、お願い……っ」  後ろを振り向いて懇願するが、返ってきたのは深いキスだけだった。 「んん……はぁっ、やっ、おちんちんおかしくなっちゃう……っ」  恭介はそんな俺にお構いなしでより奥を攻めてくる。奥の方にぐぽぐぽとなるところがあって、そこに恭介のカリが引っかかると気絶しそうなほど気持ちいい。恭介は俺の腰を掴んでそこを重点的に攻めてきている。俺の後孔は過敏になっていて、恭介の正規の脈動まで感じるほどだ。 「……っ、めっちゃ締まって俺も持ちそうにねえ……っ」 「お願い、恭介、もう出サセてぇ……っ」  そう言うと恭介はより強く腰を叩きつけ、同時にシャワーヘッドの向きも変えた。すると俺も恭介も同時に射精する。 「あっあっあーっ」 「……っ、う」  俺の精液の勢いは激しく、風呂の壁を強かに汚すとさらに跳ね返ってきた。恭介の聖駅はローションと混じり、俺の太ももから滴る。  まだ射精が続いている俺の中を、まだ高度を失わない恭介が暴れ回る。 「あっ、やっ、まだ、でてるカラぁ……っ」 「まだイってるから攻めてんだろ、中が痙攣してて最高に気持ちいいぜ?」 「やああ、ん」  ようやく射精が終わったと思ったら、再びシャワーヘッドを俺の性器に向けてきた。 「あ、あああああっ、でた、ばっかり、ダカラ、ダメぇ……っ」 「……っ、さっきより締まってんじゃん……っ」  射精したばかりの過敏な俺の性器にその刺激は強すぎた。 「だめっ、やあ……っ、」  風呂中に響き渡る俺の絶叫に近い喘ぎ声。しかし恭介はシャワーヘッドの向きを変えるどころか、水流をさらに強くしてきた。 「だめ、だめだめだめあだめ……っ、おしっこ出ちゃう……っ」 「やっぱり潮吹きそうな時が一番締まって最高……っ」 「ねえ、だめ、だめだからあっ、おしっこ、でちゃ、……っ」  そこでまた恭介に奥の方をぐぽぐぽとされると我慢なんてできない。俺はシャワーヘッドの水流に負けないほどの勢いでおしっこを噴出させてしまう。 「ああ、あああ、ああーっ!」 「くっ……、つぅっ」  恭介は俺の最奥にまた射精する。さっきも射精されたので俺の腹の中は恭介の精液でいっぱいだ。恭介が俺の下腹部を押すとドロドロと恭介の精液が溢れてくる。 「俺の精液で腹の中いっぱいだな……」 「うう……恭介のイジワル……」  俺は恭介の指で中の精液を掻き出され、先に風呂を出た。恭介は風呂全体をシャワーで流してから脱衣場にきた。疲れ果てて服を着ることすらままならない俺に服を着せ、自分も服を着てベッドルームに行く。 「恭介、すき、ダカラ恭介のこと、僕が守る」 「俺も好きだよ、皓也、俺もお前を守りたい」  まったりとしたキスをしていくうちに微睡がやってきて、そのまま寝た。

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