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第10話
俺の日課に恭介のボディガードの訓練が加わり、何週間か経った時、恭介の方の交渉の決裂が確定した。組は恭介派と別の幹部長島派に分裂し、本格的な抗争に突入した。今時ヤクザの正面切手の抗争も珍しいらしく、警察も驚いているようだ。
俺は恭介に提案して恭介の家の出入り口に金属探知器を導入した。恭介は大袈裟だと言っていたが、抗争となった以上、こちらも妥協できないのでどうしてもと言って買ってもらった。恭介のボディガードは全員銃を携帯し、金属探知機を通る際は横のカゴに銃を置かせる。こちらの情報をある程度警察に流している可能性があったため、長島派が警察に情報を流している可能性もあるため、部下へ支給するトカレフについては長島派が知らないルートで入手したらしい。
俺もベレッタを肌身離さず携帯していた。その他に恭介の伝をたどってセラミック製のナイフも注文した。これは殺傷能力は普通のナイフに劣るが、金属探知機には引っかからない。また、恭介の部下に訓練として銃のメンテナンスも教えた。メンテナンスのされていない銃を使うと運が悪ければ利き手と永遠にお別れすることになるからだ。
「本当はフィールドストリップ(野戦分解)ができるようになれれば一番いいけど、まあ最低限簡単な清掃くらいはしておけよ」
フィールドストリップとは銃器を掃除、メンテナンス及び修理のために分解することだ。銃の構造と仕組みを頭に入れておけばいざと言うとき何かと便利だが、この短期間でそこまでは望めないだろう。
相手からの襲撃は何度かあったが警察も警戒しており、ここに突入するまでもなく武器の不法所持で逮捕されていた。恭介はこちらからは手出しをしないという判断を下し、闘争心あふれる部下たちをうまく説得していた。俺もその判断は賢明だと思う。下手に動かなければ警察も手出しはしてこないだろう。武器の不法所持はこちらもしているが、秘密裏に行っているので家宅捜索される恐れも殆どない。
ここで面白くないのは長島派の連中だ。まるで警察が恭介を守っているかのような状況は面白くないだろう。なので現状は長島派との睨み合いが続いているが、いつ警察の目を掻い潜ってこちらに突入してきてもおかしくない状況だ。長島派に警察とある程度パイプがあれば、警察の警備情報も筒抜けになり、そこをつかれる可能性がある。
俺の方は警察と言っても暴力団を相手どる組織犯罪対策部ではなく、いわゆる公安の中でも特に機密を扱うゼロという組織と通じているため、組織犯罪対策部の情報を横流ししてもらうと言うのは無理な話だ。
恭介は外出をなるべく控えているが、どうしても外出する時には俺もボディガードとしてついていった。今日も恭介は外せない下部組織との会合があるとかで外出準備をしている。俺はスーツを着て、明るくなった髪の毛をワックスで整え、眼鏡をして恭介の後ろに常に控えている。恭介がトイレに行くと言ったので俺ともう一人のボディガードで着いていった。トイレの前に一人立たせて、俺は個室の安全確認を終えると、恭介を招き入れた。
「ここまでしなくてもいいんじゃねえ?」
「いや、念には念を、デス」
「ふーん……まあ俺にとっては安全ではあるか……」
「……?」
そう言うなり強い力でトイレの個室に連れ込まれてしまう。恭介は手早く俺を拘束すると俺のズボンを下ろして愛撫し始めた。
「ちょっと……恭介……、ダメ……っ」
小声で抗議する俺に、
「俺にとっては安全でも皓也にとっては危険地帯だったみてえだな?」
そう言いながら後孔に指を入れてくる。俺の後孔は恭介に性器をいじられると反応するようになってしまい、すっかり抵抗することをやめてしまっている。
「ぁ……、ゃ……っ」
俺は手で口を塞いで声が漏れないようにするのに精一杯で、恭介にこの行為をやめさせることができない。
恭介は向かい合ったまま俺の後孔をさんざん弄り、俺を後ろに向かせると、ゆっくりと挿入してきた。
「……っ、ぅ」
トイレの入り口には恭介のボディガードがいるので彼にバレたらと思うと恥ずかしさで気絶しそうだったが、俺の意図に反して俺の後孔は恭介を易々と受け入れた。恭介はゆっくりと確実に俺の最奥に達した。
「……、ぅ、ぁ」
「……きっつ」
俺は一生懸命声を抑えるのに必死だ。なのに腰勝手にいやらしく恭介を誘い込むように動いてしまう。恭介はその動きに合わせるように律動する。
「……、……っ、ぁ」
恭介の手は俺の性器に伸び、俺の性器の先端の弱いところを集中的に攻め始める。同時に律動も激しくなり、静かなトイレの中に僅かな水音が響いてどうにかなりそうだった。
恭介の律動と俺の性器への愛撫が一層激しくなると、俺の後孔がギュウっと締まり、お互いが追い込まれていく。
「スーツで真面目に眼鏡かけてるお前が乱れてるのって最高……っ」
「……、ぁ、……」
言わないで、と言う意思表示で首を振ったのだが恭介には伝わっただろうか。さらに追い込まれていく俺にはわからなかった。
「……、でちゃう……」
小声で囁くと恭介の手が俺の性器の先端部を覆う。恭介は俺の耳を噛みながら「俺も出すぞ……っ」と囁き、ほぼ同時に果てた。俺の精液は恭介の手が受け止め、恭介は俺の後孔から性器を抜き取ると便器の中に射精した。俺はいつも中に出されているので若干物足りない気分になりながらも恭介の手についた俺の精液を舐めすすり、恭介の性器をしゃぶって綺麗にした。
「よくできました……でもまだ全然足んねえから家に帰ったらたくさんしような?スーツのままでよ」
とキスしながら恭介に言われ、個室から出た。恭介は用を足すと何事もなかったかのようにトイレから出てきた。俺は乱れた髪を整え、トイレから出ると、トイレの外で待っていた恭介の部下は委細承知と言う顔をしており、恥ずかしかった。
会合が始まり、恭介の後ろに控えている。会議室は恭介の事務所の七階で、周囲の状況確認を事前にしたところ、安全そうではあった。
議題はもちろん長島派との抗争についてだ。各所で被害が出ている様子で被害状況と今後の対策を話し合っているようだ。参加者も各々ボディガードを連れてきており、緊迫した雰囲気が漂っている。
議論自体は淡々と進み武器の支給ルート等の話になった瞬間、
ガシャーン!
ガラスが割れるような音とともに銃声が沢山飛び交っている。これは不味い。警察は何をしていたんだ?
俺は恭介を会議室の机の下に隠し、会議の参加者にもそうするように指示した。会議室の扉の鍵をかけ、警察に通報する。廊下からは怒声と悲鳴が聞こえてきており、何人かは射殺されている可能性がある。
俺はドアを開いた時に影になるところに隠れ、ベレッタを抜く。いつ奴らが入ってきてもいいように準備をする。他のボディガードも入り口付近に集まり、入り口から入って来た奴を蜂の巣にできるようにしていると、
ドォン!
と言う爆音とともにドアではなく壁が崩れた。まさか壁をぶち破るような装備をしているとは!ぬかったと思った時にはすでに遅く、ドア付近にいたボディガード達と壁を崩してきた奴らで銃撃戦となった。俺は……俺だけならむしろスムーズだったかもしれない。味方であるはずのボディガードどもの動きがいちいちトロくさくてキレそうだった。
「お前ら、どけ!」
味方に怒声を浴びせると俺が矢面に立った。片っ端から敵にヘッドショットを喰らわす。相手はそこまでの手練れではなかったが全くの素人というわけでもなかった。会議室の椅子をぶん投げてこちらに銃弾が飛んでこないようにしつつ、一人一人確実に仕留めていき、突入してきた奴らはあらかた片付きつつあった時、不幸なことにどこに隠れていたのか奴らの増援が一気に入ってきた。
俺は突入者を殲滅することから恭介のみを守ることに考えを切り替え、恭介の元にダッシュで走っていき、恭介に向かってくる敵を撃ち続けた。幸い敵の武器はトカレフだったので俺自身はあまり被害を被らずに済むな、と思った瞬間、最後尾からアサルトライフルを持った奴が出てきた。俺は恭介に「逃げるぞ」と合図を送ったが「下部組織の奴らを見捨てるわけにはいかねえ」と頑として動かない。
「ふざけんな、アサルトライフル持ってる奴がいるんダゾ?このままだト全員死ぬ」
「そっちこそふざけんな、こう言う時のために俺がいるんだろうが!」
そのまま恭介は大きい声で「俺はここだ!俺に用があるならこっちに来い!」と怒鳴った。
勘弁してくれよと思ったがそのおかげでアサルトライフル男の動きが一瞬止まった。おそらく彼の上役に指示を仰ごうとしたのだろう。その瞬間を俺は見逃さなかった。
角度的にかなり厳しいがいけないことはない。俺は一瞬でそう判断し、アサルトライフル男に狙いを定めた。これを外したらおそらく次の瞬間俺の上半身は吹っ飛んでるだろう。
ーーさあ、どうだ?
俺の狙いはもちろんヘッドショットだったが若干はずし、銃弾は首を貫通したらしい。彼にとってはとても不幸なことだが、首には太い血管がわんさか通っていてそのどれかを突き破ったらしく、アサルトライフル男はぐるりと回って倒れた。
アサルトライフル男さえ片付けて仕舞えばあとはどうと言うこともなかった、というか、アサルトライフル男がやられた時点で突入者たちは撤退を選択したようだ。俺ならーー全員一人残らず殺すが……恭介に聞くと「逃げしておけ」とのことだったので逃しておいた。
敵は十数人死傷しており……その殆どを俺がやってのけたのだが……、こちらの陣営は負傷者のみだったので結果としてはまずまずだ。
再度安全を確認してから恭介を机の下から出す。恭介は「皆大丈夫か?怪我人には応急手当てをしておけ」と命令し、これからくるであろう警察にどのように事態を説明するか会議の出席者と話し合っている。
俺はベレッタを仕舞う。何発も打ってしまったのと貫通した弾丸もあるので全ての銃弾の回収は困難だろう。せっかくどこにも足のつかない貴重なベレッタだったが今日でお別れ、こいつは警察の証拠品保管庫で余生を過ごすのだろう。
俺は何発か銃弾が掠めたが大したことはなかった。もう一人の恭介の部下も大きな被害を免れたらしい。
しばらくすると警察が到着しマスコミもほぼ同時に到着した。俺たちは警察に事情を聞かれることになるだろう。取り調べは長時間にわたり、長い一日になる。恭介は今日起こったことをほぼ正確に話すことにしたようだ。ただこちらが持っている武器だけは不法所持で逮捕されないよう、全て突入者が持っており、それを奪って戦闘した、と言い張るつもりらしい。かなり無理があるが、最悪俺一人だけ武器を所持していたことにすれば、何せ殆どの奴が俺の銃弾で倒れているのだから俺が逮捕されるだけで済む。そう覚悟して警察の取り調べを受けることにした。
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