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第10話 烙印と始まり

* * *  今思うと、あの頃の自分は小学生がそのまま大きくなっただけの様な気がする。 小遣い欲しさに、事の分別もつかないまま安易に自分の身体を差し出していた。 あの後、川北くんのお兄さんにメチャクチャ突かれて、痛かったら途中で止めてくれるという約束は無視された。まあ、あの状態では止められないんだろうけれど.....。 取り敢えず僕の初めては川北くんのお兄さんに奪われて、以来、お金を持っているおじさんとはそういう事で小遣い稼ぎをする様になった。  僕の身体に押された烙印みたいなものは、見た目じゃ分からないが心の奥深くにしっかり刻まれている。後になって知ったが、こういうのを『ウリ』というらしい。 まさしく自分を売る訳で、買う人がいるから成り立つ商売の様なものだ。  高校2年になって、僕がバイトをすると思っている母親は、益々お金を置いて行かなくなった。学費は出して貰っているが、食費は忘れているんだろうか。家にも帰らない日が続く。  ある日、少し違った場所でおじさんを探そうと、初めて行く繁華街に足を延ばす。 メイン通りには綺麗な店が並んでいて、その裏通りにある一軒のショップに目がいった。  雑貨や服に混じって、結構な大きさのインテリアも置かれていたが、一番目をひいたのは店主の男の人。 長い髪を束ねていて、背も高くて顎髭がある。一見ガサツそうに見えるが、顔立ちはものすごく綺麗な人だった。どうしてあんなヒゲをはやしているのか......。  店内で物色していると、入口から入って来た男性と会話を始める。 その人は僕と同じような髪型をして、少し日に焼けた健康そうな男性だった。 二人の姿に自然と目がいく。なんとなく、二人を包むオーラが周りとは違う色に感じた。  店主は入口に立つと、大きな声で男性に向かって「かつらー、元気でなー。俺が行くまで遊ぶんじゃねぇぞー。」といいながら通りの向こうに手を振っていた。 友達か。その時はそう思ったが、じっと男性の後ろ姿を見ている店主がどことなく寂しそうで、たまに見かけた母親が、男の人を見送る姿と重ねてしまった。 「まさかね、.....」と、小さく呟いて、すぐに僕は店主に声を掛けた。  一枚のTシャツを手に取ると、コレの色違いを探してもらう。 「お待ちくださいね。」と云って直ぐに探してくれるから申し訳なくなった。 本当は買う気なんてなくて、店主とあの男性の間の空気を断ち切りたかっただけ。 なんだかモヤっとした。僕が知らない感情をこの人たちは知っている様な気がして。 少し悔しい様な気になった。それに、この店主の気を引きたかったのもある。  案の定、カレは三枚のTシャツを持って戻ってくるとにこやかにそれを広げて説明し出す。 「じゃあ、こっちのブルー系で。」  僕がそう云ってじっと見つめると、カレは「きっと似合うよ。.....キミ可愛い顔してるね。」だなんて云ってくれる。その瞳が優し気で、僕はもっと見つめて欲しくなった。 こんな綺麗な男の人は見た事がない。髭が無かったらもっとキレイになるんだろうな。 「ナンパですか?」と訊くと、ははは、と笑う。  Tシャツ一枚が5200円もするなんて。と思いつつ、それでもお釣りとレシートを僕の掌に置いてくれると少し嬉しくなった。差し出す手も綺麗で、よく見ると睫毛も長くて肌もシミひとつない。僕が相手をするおじさんと比べたらいけないが、月とスッポンってこういう事だろうな。この人にならお金は要らないから身体を差し出してもいい。  変な事を思ってしまって、急に自分が恥ずかしくなった。 慌てて帰ろうと思い店から出るが、なんとなく後ろ髪を引かれる思い。もう一度カレの顔を見たいな.......。

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