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第11話 置いてけぼり

 つまらない高校生活を送りながら、それでも数人の友達らしきものも出来た僕。 「大原、いつも昼飯はパンとかだけど帰る迄もつ?オレ、腹減って途中で購買のパン食っちゃう。」  音楽室の窓辺から陽射しが差し込んで、それを避ける様にノートで顔を隠しながら木村くんが云った。ここは昼休みの休憩場所として、僕と木村くんと朝比くんとの三人が共有している教室。木村くんは僕より背も低くて、華奢なのによく食べる印象だった。 「僕はあまり食に興味が無くってさ、小さい頃から小食だったからアレで充分なんだよね。」 「木村は見た目のわりに食うよな。大食いの人ってさ、結構痩せてる人多いのなんでだろう。木村も大食いチャンピオンになれるかも。テレビに出てみろよ。」 「やめてくれよ、あそこまで食えねーって。」  朝比くんは木村くんを揶揄ってばかり。でも二人は仲がいいのを知っている。 所謂、デキてる、ってやつだ。男同士だけど、お互いまんざらでもない感じで、帰りに寄ったカラオケボックスで僕がトイレに行った時にキスをしていたのを目撃している。  それを誰かに話すとか、そんな事はするだけ面倒だしどうでもいい事。僕は人には云えない事を十分にしているし、もし、それが学校の耳に入ったら退学になるだろうと思っている。 「今日は一緒に帰る?」 「あー、ごめん。ちょっと用事があって。」 「そうか、.....なら、木村と二人で帰るかな。」  そういう朝比くんの頬がちょっと色付いた。そして木村くんも顔を隠したノートで自分を扇ぎだす。こういう所が僕からしたら可愛いし分かりやすかった。  ふと、あの人に会いたくなった。  そう、あのショップの綺麗な男の人。 今日はお金を持って来ていないし、明日帰りに寄ってみようかな。  夜迄時間をつぶして家に帰ると、母親の結婚相手が凄い形相で僕を待っていた。 「た、だいま、......どうかした?」 「お母さん、どこ行ったか知らないか?」 「は?いつもこの時間は店に行ってるでしょ。何か用事ですか?」 「......店にも何処にもいないんだよ。しかも、店長も、だ。それと、店の経営者から電話があって、店の金を持ち逃げしたらしいって、.......ホントに知らないのか?」  結婚相手の安西さんは、40歳ぐらいのごくごく普通のおじさんだったが、普段穏やかな物言いなのに、今夜ばかりは人が違うってくらいに怖かった。 「......僕が知るわけないじゃないですか。知ってたら止めるし、僕はどうなるんですか?」  正直、あの母親がいなくなっても悲しいとは思わない。僕からしたら既に育児放棄されて育った様なもの。今更驚く事もなかったが、でも、店の金を持ち逃げとはいったい....。これって犯罪?だよな。 「.....純くんが知らないんじゃ探しようがないな。.....困った。困ったよ。どうすればいいんだ。」 「......... 」  先週、やっとこの一軒家に引っ越してきたばかりなのに。 安西さんを騙していた母親は、多分この人に僕を押し付けて消えてしまったんだ。 これで僕には父親も母親もいないって訳だ。こういうのってどうなのさ。僕の立場はどうなる?  高校から近くなって漸く慣れてきたのに、この家から追い出されるのかな.....。  安西さんはいろんな所に電話をしている。母親の行きそうな場所が分かるんだろうか? 僕には全く見当もつかない。あの人が何を考え何を目標にして生きているのか。 でも、今回店長と一緒らしいという事で、母親らしいとは思った。男運が悪いというのか、なんというのか.....。安西さんという安定株を見つけたのに、どうして変な男に引っかかるんだろう。 「純くん。ちょっといい?」 「はい、」  部屋の前で声がして、僕がドアを開けると安西さんは紙袋を抱えて部屋に入って来た。 「コレ、」 「なんですか?お母さんの居場所分かりましたか?」 「いや、そうじゃなくて、.......コレにお金が入ってるんだ。」 「え?」  おずおずと開いて見せるブランドの紙袋の中には、僕名義の通帳と印鑑、それに50万円のお札が入っていた。 「これ、.......?え?......お母さんが僕に置いていったんですか?」  安西さんに訊ねると、無言で首を縦に振る。

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