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第12話 天涯孤独というのは
恐るおそる通帳を開いて見てみる。と、そこに紙切れが挟んであって、『専門学校の学費』とだけ書かれた母親の文字が目に入った。
「専門学校に行くの?」
安西さんが僕の顔を覗き込むと訊いてくる。
「.....手に職をつけようと思って。.....美容学校に行くつもりです。」
「そうか、.....お母さん、これだけは残してくれたって訳だ。こっちの現金はなんだろう。」
僕に訊かれても分からないが、店のお金を持ち逃げしたと訊いたらいい気はしなかった。
もしかしてこのお金もその一部だったりして.......。
「.....どうします?店の人に話した方がいいですか?.....なんかヤバイお金だったら、.....」
「.....取り敢えずはこのままにしておこう。それに、純くんの学費だってあるし、生活費も....」
確かに、まだ高校生活は残っているし、退学したら専門学校に入れない。
僕がウリをして稼げる額もしれているし、安西さんにも迷惑はかけられないもんな。
「じゃあ、これは安西さんに預けます。僕が持っているより安西さんの方が管理してくれるし。」
「そう、かな。.....じゃあ、預かるよ。欲しい時はいつでも云ってくれればいいから。」
「はい、.....すみません、母親のせいで迷惑かけてしまって。.....まだ、籍も入れてなかったんですよね?僕なんて他人なのに.....。」
「何云ってるの、純くんはオレの子供になるんだから。籍が入れば、だけど.....。でも、ここに居てくれていいからね。お母さんもその内戻ってくるかもしれない。」
「ありがとうございます。.....安西さんが居てくれて良かったです。僕一人じゃ心細くって。」
「いいんだよ、今夜は早く寝よう。そして帰りを待とう。きっと帰って来てくれる。」
「はい、......」
ドアを閉めると階段を降りて行く足音が聞こえる。
僕はドアに背をつけてふうっと息を吐いた。
あの人、本当にお人好しか。こんな大きな息子が急に出来て、結婚相手に逃げられてるのに.....。でもまあ、暫くは此処に置いてくれるわけだ。お金もあるし、あの人に預けておけば僕も気兼ねなくここで暮らせる。
親戚も何もいない僕は天涯孤独の身になったってわけだ。
明日はあのショップに行こうと思っていたのに、これじゃあ無理だよな。
またウリをしなくちゃいけないな。川北くんのお兄さんも最近は連絡をくれないし。
就職活動でもしているんだろうか。
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