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第13話 僕の居場所は
母親の件があって、夜になると安西さんの家に怖そうな男の人が訊ねて来る様になった。
多分、バーの経営者が寄越しているんだと思う。僕らが母親に接触しないか見張っている。
「こう毎晩来られたらまいっちゃうよ。近所の人の目もあるし.....」
安西さんの疲労は僕の目からも十分に分かる程のものだった。仕事を休む様になって、昼間は何をしているのか。僕は朝ご飯も食べずに高校へ行き、帰りにウリをして小遣いを稼いでいる。
最近はホテルまで行くこともなく、路地裏で酔っ払いのおっさんのを咥えてやるばっかり。
それでも僕が高校生という事で料金は弾んでくれた。
「ただいま」
家の玄関で声を掛けて入るが返事はなかった。
キッチンへ向かうと、テーブルの上には申し訳程度の量のお菓子が袋に入れられている。
それを手に取って見ていると、「あ、おかえり。」という声が背後で聞こえた。
「居たんですか。....ただいま。これは?」
僕が袋の中からお菓子をひとつ取り出して訊く。
「ああ、それはパチンコの景品だよ。良かったら食べて。晩ご飯は食べたのかい?」
安西さんが無精ひげを指でつまみながら訊いてくるが、僕は内心呆れていた。
仕事を休んでパチンコか。.......お金はどうしたんだろ。
「食べました。友人と一緒に。......じゃあ、これは部屋でいただきますね。」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
袋を握り締めて階段を上がると自分の部屋に向かった。
........あの人、あのお金を使い込んでるよな。きっと。
御菓子の袋を机の上に放り投げて、着替えをしながらそう思った。
お金を預けたのは失敗だったかな.......。急に不安になる。でも、今はまだ他に術がないし此処に居させてもらわないといけない。
僕は自分の生い立ちを呪う事はなかったが、人生なんてこんなものかもしれないと、気持ちの何処かでいつも思っていた。父親もいなくて、母親にも置いて行かれた今となっては、高校生でいる事が恨めしい。せめて社会人として働ける場所があったら良かったのに。
シャワーを浴びてベッドに寝転ぶと、床に置いたままのアルバイト情報誌を手に取った。
高校生が働ける場所。.....ほとんどがコンビニか飲食店だ。
ウリをして稼げる額は、コンビニだと5時間くらいは働かなくちゃならない。飲食店ならどうだろう.......。
「あー、めんどくさい。」
雑誌を閉じてまた床に放り投げると、僕の頭の中にあのショップが浮かんできた。
「そうだ、あの店なら5時間でも居られる。あの人が居たらきっと楽しいかもしれない。」
ふいに口をついて出た言葉に自分でも驚いたが、僕の中にあの綺麗な店長さんが焼き付いて離れないのだと気付いた。やっぱりもう一度あそこに行ってみよう。
そう思ったら少しだけ気持ちが華やいだ。
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