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第14話 憧れの人
少し日にちが空いてしまうと、僕の事なんか覚えていないんじゃないかと不安になる。
それでも、見覚えのある繁華街を少し入った場所にあるショップを目指して歩いて行った。
夕方6時をまわっているが、店は開いているだろうか。
前に来た時にはシャッターが降りたままで、店に入る事が出来なかったけれど、今日は通りの先に見える感じだと開いているみたい。
入口から店内を見ると、お客さんは居なさそうだ。店長さんがひとりで服を棚に並べていた。
肩まである黒髪を無造作に掻き上げる姿は、男の僕でもうっとりとしてしまう。
きっとモテるんだろうな。と思いつつ声を掛ける。
「こんにちは。.....今日は開いてるんですね。」
振り返って僕を見た店長さんの目が、一瞬僕を通過してどこかに向けられた様な気がした。
でも、すぐに気を取り直すとにこやかに微笑んでくれる。
「あ、....久しぶりだね。いらっしゃい。」
「買い付けに行かれていると思ってたんですけど。」
僕が棚の上の商品を手に取りながら訊くと、店長さんは少し困った様な顔をした。
「.....うん、ちょっと行けてないんだ。これは去年の。」
そう云いながら棚の下でカードホルダーを取り出したから、「おーはら、っていいます、僕。」と一応名前を云っておく。覚えてくれているだろうか......。
カードを見ると「え?横浜から?」と驚いた声をあげて、もう一度僕の顔を見直した。
「それを書いた時は横浜に住んでいて、今は引っ越しして三田駅から四つ目のところに住んでます。もう一度住所とか書き直した方がいいですか?」
「ああ、うん、お願いするよ。そうか、近くなったんだねぇ。」
住所と名前をもう一度カードに記入していると、店長さんは僕の指先をじっと見つめた。
なんとなく、気を引きたくなって「僕、親に捨てられたんです」と云ってしまう。
「ぇ、.......17歳って、高2?」
暫くの沈黙のあと店長さんは訊いてきた。
「いえ、2月生まれなので高3です。」
そう云うと、あからさまに焦った表情になってさらに僕をみつめる。
なんだろう、この昂り。この人の中に僕という存在が刻まれた様な気がした。
でも、「親の事をそんな風に云ってしまっていいのか?」と云われ、ちょっと失敗だったかな、と反省。きっと店長さんの家族は、温かくて優しい人ばかりなんだろうな。
僕は向きを変えると店内の商品を見て周った。どれもセンスが良くて、値段もそこそこするが、量産品でないのは僕にでも分かる。
「買い付けはいつ頃行かれますか?」
次に来る予定を入れたくてそう訊いたが、店長さんは困った顔になると「当分は無理かなぁ。」と苦笑い。
「もし、留守番が居なくて買い付けに行けないんなら、僕をアルバイトに雇ってくれませんか?」
自分でも驚くほど勢いで訊いてみたが、店長さんの表情は苦笑いのまま。
「せっかくだけど、高校生にこの店を任せる訳には行かないよ。.....悪いな。」
「.....やっぱり。ですよね。......」
僕が分かりやすくガッカリした顔をしたもんだから、店長さんは急にさっきの親に捨てられたという話を確認しだした。
「.....親に捨てられて、今は祖父母の家、とかか?」
断って悪いと思ったのか、そんな風に訊かれて、「おじさんの家。」とだけ答える。
でも、それを親戚のおじさんだと思った様で、飯ぐらいなら食わせてくれるだろう。と云われてちょっと悲しくなった。そんな親戚、僕にはいないのにさ.....。
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