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第16話 世渡りとは

 木村くんの家に泊った翌朝。僕が学校に着いて昇降口で靴を履き替えていたら、朝比くんが「おはよう」と云って僕の背中をポンと叩いた。木村くんは日直で僕より先に登校しているから、今朝は一人だった。 「あ、おはよう。」  いつもの様に挨拶を交わすと、今度は周りに人のいないのを確認して僕を引き寄せる。 「な、...何?」 「....木村のとこどうだった?親父さん怖かった?」  朝比くんの問いかけにどう答えればいいんだろう。お父さんの印象を知りたいのかなぁ。 「怖くなかったよ。別に普通に優しい感じのおじさんだし。長距離トラックに乗っているからって、怖いとか思わないよ。」 「そうか、.....なら良かった。」  何が良かったのか分からないまま、朝比くんと一緒に教室まで歩いて行くと、木村くんを見つけた朝比くんが早速カレのところに近寄って行った。 「今夜もうちに来る?」  木村くんにそう訊かれるが、続けては悪いと思い「今夜は帰るよ。ありがとう」といった。 「そうだ、土曜日ならオレのところに泊ってもいいよ。うちの連中土、日で旅行行くっていうから。オレは家族旅行とか行かねぇし。」 「....そう?じゃあ、お願いする」  朝比くんの申し出を有難く受けると、木村くんはちょっと不服そうな顔をした。 「木村くんも泊れたらいいのにね。」 「ぁ、....そうだな、泊りに来いよ。」  僕と朝比くんに云われて、表情が一変すると「うん、そうする。」と機嫌を直した木村くんだった。 * * *   僕が外泊するのを安西さんは止めない。 多分、あっちも清々しているんだと思う。それに最近気づいたけど、あの人僕の部屋に入って何か探し物をしている様だった。ひょっとして母親が何か残しているとでも思ったのか。 現金と通帳は預けてあるから、僕には何も金目の物は無い。自分で稼いだお金は学校に持ってくるデイバッグの中だし。この中には僕の着替え一式が入っていた。  このバッグ一つで友達の家を泊まり歩く生活をしようとは、思ってもみなかったよ。 でも今は仕方ないと諦めた。高校を卒業するまではこの生活だ。  朝比くんの家に通されて、ちょっと川北くんの家を思い出した。 一軒家の同じような間取りの部屋で、朝比くんの部屋はやっぱり二階。 隣は妹の部屋だという。 「晩飯どうする?親が金くれて、何か頼んでもいいってさ。」  朝比くんは財布を見せると僕と木村くんにそう云ったが、「僕が作るよ。任せて」といってキッチンへ向かう。 「大原のご飯美味いから。」 「へー、マジ?.....じゃあ、足りない物あったら買って来るからさ。」 「冷蔵庫の中見ていい?」 「ああ、いいよ。何でも使ってくれ。」  冷蔵庫の中には牛肉や野菜も残っていて、それを取り出すと「肉野菜炒めでいい?」と訊く。 「いいいい、それ食いてー」  朝比くんも木村くんも喜んでくれたからちょっと嬉しくなった。 自分が出来る事を褒めて貰えるのは快感でもある。幼少期から母親に褒めてもらったのは顔立ちが可愛いって事くらい。あとは僕が何をしても興味が無さそうで。  荷物は二人に二階へ持って行ってもらい、僕は調理に取り掛かった。 晩ご飯には少し早かったが、この後ゆっくり遊びたいと思って。それに、僕がご飯を作っている間、あの二人が何をしていようと見るものもいない。僕は二人に時間を作ってあげたって訳。  僕だって、少しは二人の為にならなきゃね。

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