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第21話 不謹慎な僕のこころ
居間で顔を突き合わせる僕たち。
シン、と静まり返った部屋の中で、息をするのも遠慮するほど。
すると、突然お姉さんが小金井さんに云う。
「桂くんのお父さんから、今朝連絡をもらったの。.....千早にもメールが来たでしょ?心配したのよ、電話しても繋がらないし、.....。アンタ、携帯を庭に落としたままだったでしょ」
「.......多分、」
「残念だわ、.....どこかでは、こういう事になるかもって思ってはいたけど、.....現実になったら...........」
僕の目の前で交わされる会話に、なんとなく不安が募る。
「あの、....この家の桂さんに何かあったんですか?」
ついそんな事を訊いてしまった。が、すぐに返事はなくて。
「小金井さん、土手で彼岸花に埋もれて寝ていたんですよ、さっきまで」
お姉さんに向かって云うと、驚いたみたいで目を見開いて小金井さんの顔を見た。
「え?まさか、それで足を怪我してるの?」
「裸足で歩いて来たらしいです」
僕が云うと、一気に表情は曇った。
「兎に角、お父さんには無事だと伝えたから。うちの親にも、......。ひょっとして、後を追ったんじゃないかって心配してたんだから!........ううっ、.....ぅ」
突然泣き出したお姉さんにどうやって接したらいいのか。
「あの、.....その方、亡くなったんですか?」
お姉さんに訊くと、うんうん、と頷いて立ち上がると台所に行ってしまった。
悪い事を訊いてしまった、と思った僕が小金井さんの顔を見ると、カレはどこか余所事の様な顔をしてぼんやりと庭を見ている。
いったい何があったんだろう。桂さんって、小金井さんのなに?
台所からお姉さんが戻ってくるが、瞼を赤く腫らして、僕に暫く此処に居て欲しいという。
実家はこの近くらしい。こんな状態の小金井さんを残されて、僕はどうしたらいいのか....
お姉さんが戻って来るまで、僕は居間で監視役みたいな事をしている。
2,3時間ほどで戻ると云って出て行ったから、その間は目を離せなかった。
でも、テーブルに肘をつきながらもう片方の手で畳の目地をガリガリと擦る姿は不気味だ。
憧れの人のこんな姿を見る事になるとは.......。
時折、含み笑いをしては畳を撫でる様にして、益々意味不明な行動をしている。
悪いと思ったが、僕は睨んでしまった様で、小金井さんは僕を見つめると「悪いな。気味悪かったか?......なんだか可笑しくってさ、....」という。
「....桂っていうのはさ、俺のおとこ。......俺、ゲイなんだよね」
「......え?」
耳を疑って訊き返したが、その途端、ザリっと音をたてて畳を擦っていた爪が剥がれた。
目の前に、血が滲む指をじっと見る小金井さんが居て、「イテぇな....」と云うと口にくわえて吸い出した。
「こ、金井さん、.....やめてください!」
止めたのは、カレの口からさらに血が滴っているから。
自分の舌をガリガリと擦っては傷付けているのが分かった。
「そんな事!....痛みを感じて気持ちいいですか?!」
「くっ、.....ふふふ、.....ふふっ、」
笑いながら血を流す小金井さん。
僕は、力いっぱい小金井さんの手を引っ張ると口から離した。でも、すぐに入れようとするから....
「口の中、血だらけですよ」
そう云うと、カレの口にくちびるを寄せて塞ぐ。
これは僕のファーストキス。
血生臭い、鉄の味の様な。小金井さんに口づけ出来るなんて、本当なら天にも昇る気持ちになるところなのに......
「ヴッ.....!!」
急に髪の毛を掴まれると、「ねぇ、噛んでもいい?」と訊かれる。
僕は頷いた。もう、どうなってもいいと思える程、この状況に興奮している自分がいた。
そして、小金井さんは僕の首筋に噛みつくと畳の上に押し倒す。
小金井さんの異常な行動が、僕の心を満たしてくれるなんて......
それを喜ぶ僕は、悪い子だ。
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