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第22話 誰を見ているの?

 いつだったか、もしも小金井さんが相手だったら、と想像した事がある。  ウリの相手は、大抵がサラリーマン。しかも中年の、多分奥さんがいるであろう男。 そんな男たちに僕の身体は汚されて.........、いや、汚したのは自分自身だった。 お金の為に、【少年】というブランドを買ってもらったんだ。無垢だったのは、僕の中の愛情に飢えた心だけ。  いま、想像を超えて小金井さんの手が僕の太腿をなぞるように這っている。 その感触は、挿入された部分の痛みを和らげた。    小金井さんの無表情な顔が僕を見下ろす。 僕は、痛みを堪え乍ら見つめ返すと、小金井さんの腕にしがみ付いた。 でも、すぐにその手は掴まれるとシーツに貼り付けられる。 少しだけ悲しかった。この腕で小金井さんの背中を包みたかったのに、それを拒否された様で。  小金井さんは僕の中に入りながら、ゆっくりと瞼を閉じる。 心地よい律動が繰り返されて、僕は小金井さんを求めているのに、彼からは求められていないような気がした。  確かに身体は繋がったはずなのに.......  瞼の奥に誰がいるのか.........  桂さんという恋人を思い出しているんだろうか。  それでもいい、と思う。今は僕を感じてくれなくても、僕が桂さんを思い起こさせるんだとしたら、それでいい。  小金井さんは、瞼を閉じたまま激しく僕を突くと、やがて意識を失った様に僕の上に倒れ込んで果てた。 「.....小金井さん、.....?」  そっと名前を呼んでみたけど、返事はなかった。  ゆっくり身体を起こして起き上がると、横で眠る小金井さんの身体にシーツを掛ける。 それから自分の服をとると、身なりを整えて階下に降りて行った。  お姉さんが戻ってきたのはお昼をまわった頃。 「大原くん、ありがとう。ご飯食べて頂戴。」    手にいっぱいの食材を抱えると、そう云って台所に行く。 「ありがとうございます。」  お礼を云って、庭に続く縁側に腰を降ろした。 小金井さんの雰囲気とは違った古い家屋。 でも、キレイに手入れされた庭は見ていると心が落ち着く。 小金井さんも毎晩こうして見つめていたんだろうか......。 「さあ、あんまりご馳走でもないけど、食べて。.....お腹空いたよねぇ。ごめんね、千早のお守りなんかさせちゃって。」 「あ、いいえ、.....頂きます。」  居間でテーブルを囲むとちょっと緊張する。 小金井さんのお姉さんと顔を付き合わせて、何を話せばいいのやら......  目の前に出されたのは、チャーハンと豚肉の炒めた物。それからトマトときゅうりのサラダ。 久しぶりに女の人と食事をする。母親とこうやって向かい合わせで食べたのは記憶に薄くて、もう何時だったのか思い出せない。 「美味しいです。」 「そう?....こんなものでごめんね。大原くんのお母さんはもっとお料理が上手いんじゃない?」 「......いいえ、こっちの方が美味しいです。豚肉の味付け、初めて食べましたけど美味しい。」 「そう?嬉しいなー。......うちにも息子が居るんだけどね、大原くんぐらいになったら自分で料理の出来る男になってほしいな。」 「僕も少し作ります。.....母親がいない時には。」 「そっかー、偉いねー。千早はどうだろう、多分外食ばっかりじゃないかな。桂くんが作ってたから......」  そう云うとお姉さんは黙り込んでしまう。  亡くなったらしい桂という人の事を思い出してしまったんだろうか。 少しの沈黙の中で食べ終えると、僕は食器を洗うのを手伝った。 こうやって母親と片づけをした事はないが、家の中に自分以外の人がいて、その人と居るのが心地良いって事を初めて知った一日だった。    

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