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第23話 家の温もりって...
結局、学校を休む事になった僕は一日小金井さんの家にいた。もとい、この家は桂さんの家なんだけれど.....
晩ご飯迄ご馳走になって、一日をこの家で過ごすと、なんとなく落ち着くというか懐かしい気分になるから不思議。
物心ついた時から一人で家にいた僕にとって、この家は懐かしい祖父母の家に来たような気がする。もちろん僕に祖父母はいない。いるのかもしれないが、聞いた事がなかった。
「大原君には本当に世話を掛けてしまって、学校まで休ませて悪かったわ。ご両親に謝っておいてね。」
「ぁ、.....いいですよ。気にしないでください。僕は小金井さんと出会えてよかったと思ってます。あんなに弱った姿は初めて見ましたけど、なにか僕が力になれる事があればいつでも云ってください。」
「ありがとう。.......高校生なのに大原くんの方がしっかりしてる。千早はダメねぇ......。」
そう云ったきりお姉さんは下を向いた。
その後直ぐに、階段を降りて来る足音が聞こえると小金井さんが部屋に入って来た。
「あ、千早、.....ご飯食べるでしょ?大原くんも食べ終わったところよ。」
「ご馳走になってすみません。」
僕がお辞儀をしてそう云うと、小金井さんは眉根を寄せて「なんで帰らない?家族が心配するだろ。」という。
その言葉に怒ったのはお姉さん。
「何云ってんの!あんたの面倒みてくれてたんでしょ?おうちには電話入れてもらったわよ。」
姉弟喧嘩が始まるのかとビクビクしたが、小金井さんはスッと縁側の方に行ってしまう。
「俺、飯は要らない。桂のお父さんから電話あった?」と訊き、腰を降ろすと庭に目をやった。
「ううん、千早の無事を伝えてからは無いわ。きっと色々大変なのよ.........」
お姉さんは肩を落とすと云った。
部外者の僕だけど、この空気の中ではジンジンと悲しみが伝わって来る。
小金井さんの恋人。.......いったいどんな人なんだろう。何故亡くなったのか。色々知りたい事はあるけど、今は訊かない方がよさそうだ。
「千早、ご飯置いておくから後で落ち着いたら食べなさい。食べたら実家に戻るのよ。あたし、大原くんを送って行くから。ご両親にもお礼を云わなきゃ。」
「..................ああ、........えっと、俺が送ってくよ。ちゃんとお礼はいうからさ。」
一瞬間が空いた。僕は親に捨てられたと云ったから、小金井さんはお姉さんを行かせない様にしたのか。それとも、本当に親がいないのか自分で確かめたかったのか.....
「じゃあ、送ってくから。」
「ぁ、はい。ありがとうございます。」
僕は荷物を持つと、お姉さんに見送られて小金井さんの車に乗った。
車の中では無言。言葉を発するきっかけがつかめない。
前に顧客カードに書いた住所を覚えているのか、近くの街まで来ると「どの辺?」と訊く。
「一つ先を右に行って、住宅街に入ってもらえますか。」
「ああ、」
「......此処でいいです。」
家の近くに来るとそう云って車を止めてもらう。
「取り敢えず、キミを無事に送り届けられて良かったよ。俺、ほとんどペーパードライバーだから。俺の腕もさびてなかったって事だな。」
そんな事を云われて、ちょっと笑ってしまう。言葉が出なかったのは緊張していたからか?
ちょっと車から出るのが億劫になった。このまま暫くこうやって二人で居たい。
「..........おやすみ。今日の事、悪かった。.....もし、俺を訴えるんならそうしてくれ。あれは完全に犯罪だった。変態野郎に犯されましたって、.........言いにくいか、......ごめん。償いはさせてもらうから........。」
横で頭を下げながら云う小金井さん。その顔は本当に反省している様子だった。
でも、僕は反省して貰いたくない。僕は小金井さんに抱かれたかったんだ。
「おやすみなさい。ゆっくり寝て下さい」
それだけを云って車から出て行くが、背中に視線を感じつつ玄関に着くとゆっくりカギを開けて入って行く。
シン、と静まり返った家に、僕の帰りを待つ人はいない。
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