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第25話 最悪の日

 母親が残したお金を使いたくないと思っていたけれど.....  美容院でのバイトも断られて、結局小遣いがなくなると僕は路地裏でのウリをする様になる。 止めなければ、と思いつつも、学生服のままサラリーマンが通りそうな裏通りに立っていると、酒に酔った一人の中年男性が僕をみつけて近寄って来た。 「お~、どうした、こんな所で。誰かと待ち合わせ?高校生じゃないの?」  その人はいかにも中堅サラリーマンの様で、仕事終わりに飲んだ帰りなのか、緩んだネクタイを気にするでもなく足元もふらついている。僕を見る目つきで、何かを期待しているのが分かると、僕はにっこり微笑んだ。 「こんばんは。気分良さそうですね。」 「まあ、な。.....何してるの?遊びに来たの?」  口元がニヤついてて、僕は近寄ると「遊びたいけど、お金がなくて.....」という。 大抵は、「お金がない」という言葉で分かるんだけど、この人は「そうかー、高校生ならバイトしろよ。おじさんなんて3つも掛け持ちした事あったぞ。」なんて、古い自慢話をし始めた。 「あ~、僕もバイトしてますけどね。女の子なら良かったんだけど、男じゃ援交なんてしてくれないし.....。僕、凄く上手いって云われるんだけど....」 「...........何が?.......ハハ、....」  おじさんはそう云うと少し黙ったが、辺りをゆっくり見廻すと小さな声で僕に囁く。 「.....いくら欲しいの?」  心の中ではニヤリとした僕だったが、すぐには答えずに下を向いた。 「.....5000円あげようか。少ない?5000円分って、何してくれる?」  息を荒げながら、それでも聞かれたらまずいと思うのか、小声で訊いてくる。 「.......口、......10分までならいいけど。」  下を向きながら、おじさんの顔は見ずに答えた。 すると、財布を出して千円札を5枚僕の腰ポケットに突っ込んでくる。 これは交渉成立って事で。 「こっち来て。」  おじさんを更に人気のない場所に連れて行くと、僕は向かい合って跪いた。  ゴクリという音が、おじさんの喉仏から聞こえて来て、早速前のファスナーに手を掛けると、既に少し盛り上がった布を下ろす。 僕は息をつめて舌先を伸ばすと、ゆっくり根元から舐め上げた。  汗で湿ったそこは、僕の舌が這うとビクンと揺れて、おじさんの視線が注がれると更に硬さを増す。僕の口元を凝視しているのが分かって、わざと見える様に一旦離すと又吸い上げた。 「うっ、........」  興奮しているし、気持ちいいのは分かるが、酒が入っているからイキずらいのか、喘ぐ割には吐精する事が出来ないみたい。 僕はポケットにしまった腕時計を取り出すと、そっと時間を見た。 .......早くイってくれないかな、...... 追加は嫌だな........  そんな事を考えながら咥えていた時だった。 「何を.....してんだ?!」  僕の背後で大きな声がして、ビクッとなった僕が動きを止めると、おじさんは慌てて僕から離れた。はだけたズボンの前を隠すようにしながらも、「え、っと、....な、何も...。コイツが!!」と云ってバタバタと走って逃げて行った。  .......最悪だ.......  今まで人に見つかる事はなかったのに。  仕方なく膝を立てて声の主に振り向く。と、更に最悪な人に見つかった事が分かる。 「おーはら、くん......?何してんだ、こんな所で.....」  暗い路地でも分かる程、長髪の綺麗な男の人が、僕の名を呼ぶと口に手を当てて困惑の表情をした。『サイアク』だと思った。一番見せたくない姿をこの人に見られるなんて。 「......見れば分かるでしょ、ウリです。」  精一杯強がって小金井さんに云えば、カレは大きく見開いた目で僕をみつめる。 「ウリ、ってお前が?」 「そうです。ここは滅多に人が通らないから。」  立ち上がってそう云うと、視線を逸らせたままじっとしていた。正直、身体が動かなかった。 自分でも小金井さんに見られてショックだったのか、シャツの袖で口を拭う事しか出来なかった。  そんな僕に近寄って来ると、小金井さんは僕の腕を掴んで引っ張る。その手が力強くて、ふり解く事が出来ない僕は、足がもつれそうになるのを堪え乍ら、引きずられる様に歩いて行った。

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