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第28話 狡い人

 「その人が桂さんですか。メガネをかけて真面目そう.....。小金井さんとはタイプが違うな。」  小金井さんに向かうとそう云った。見るからに人目を引く小金井さんとは真逆で、純朴そうな好青年といった感じの桂さんは、どちらかといえば地味な方だ。 「桂は頭もいいし真面目だし、学生の頃はよく勉強を教えて貰ってたなー。」  少し遠い眼をするとそういう小金井さんだった。 「桂さんもゲイなんですか?」 「.....いや、桂は女の子とも付き合ってたから.....違うかな。でも、.....分からないや。」  苦笑するように云うと、急に何かを思い出したのか僕の顔をしっかりと見据えた。 「そういや、お前はどうなんだよ。男とあんな事して......お前もゲイなの?」  僕は答えに戸惑った。自分の事はよく分からない。 気付いたら男相手に身体を売るみたいな事をしていたけれど、特に男が好きだからではない。 お金になるという事を子供心に知ってから、なんとなくしてきたから......。 「ま、いいけどな。おーはら君はおーはら君だし。」  なんだかそう云われてしまうと、突き放された様で悲しかった。 「ジュン、でいいですよ。僕の名前は大原純ですから。小金井さんにはジュンって呼んで欲しい」 「かわいい名前だな。でもまあ、俺のチハヤには負けるけどさ。顔のわりに可愛い名前だろ?」  小金井さんはニッコリと笑うとそう云った。 僕の事をゲイだと思っているのかどうか、それは分からないけれど特に気にする風でもない。 食事を終えると、僕は食器を台所に運んで洗い始める。 * * *   シャワーを借りて、髪の毛を拭きながら居間に戻ると、小金井さんが布団を敷いていてくれた。それを見て、本当に泊めてくれるんだと思ったら変に緊張する。 あんな姿を見られたのに、図々しくここまでやって来て泊めて貰って.........。 でも、有難いと思った。 「ありがとうございます。」 「お前、学校に行く前に家に戻らなくていいのか?教科書とか着替えとか。」  そう訊かれて、「大丈夫です。教科書はロッカーの中だし、着替えはこのバッグに入ってるんで。」と答えた。  着替えを持ち歩いているのかと、驚きながら訊かれるが、僕の生活必需品はすべてデイバックに入っていた。 「......なんだか、お前の生活環境が目に浮かぶよ。こうして誰かの家に泊めて貰ってたんだろ?」 「......まぁ、時々は」  僕の言葉に大きく溜め息をつくと、小金井さんは「じゃあ、おやすみ」と云って部屋から出て行った。 僕の言い方が悪かったのか? よく分からないけれど、正直に答えたつもり。  敷かれた布団に腰を降ろすと、写真立ての中の桂さんを見る。 知らない僕が小金井さんの傍に居るって、生きてたらどんな風に思ったかな...... ヤキモチを妬いたかな。それとも、小金井さんを信じて怒ったりする事はないのかな?  微笑んでいるだけの顔に、云いしれない感情が沸々と湧き上がって、僕は写真立てを手に取ると棚に伏せてしまった。  もう居ない人なのに.........。 僕が小金井さんに好意を抱いても、この人にはもう関係のない事になってしまった。 怒る事もヤキモチを妬く事も、泣く事も出来ないのに....... なのに、この人は一生小金井さんの心に居続けるんだ。 .........狡いですよ.........

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