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第29話 それからの僕は
真夜中に時々うなされている小金井さんの声が聞こえる。
二階にあがって行くと、僕はそっとカレの隣に寄り添って眠った。
暫く僕の髪の毛を撫でながら、落ち着くと頬を当てて眠りにつく。そんな時、きっと桂さんの夢を見ているのだと思うと悲しくなる。僕の知らない人は、小金井さんの心の中に居て、今も苦しめているんだ。
できるだけ朝には元気な顔を見せようと、みそ汁を作ったりしてみたが、相変わらず小金井さんは僕の心配をしている。おじさんと出会ってくれて、僕を暫く預かると云ってくれた時、本当に嬉しかった。ただ、母親が残していったお金を預けると云われた時には正直まずいと思った。
僕は小金井さんの気を引こうとして、おじさんがお金をくれないと話していたから、それが嘘だとバレてしまった。でも、深くは訊ねられなかった。なんとなく分かっていたのかもしれない。
「お前の事、期限付きで預かると云ったけど、アレは本当にそう思ってるからな。ここを出なきゃいけないし、今、知り合いに頼んで部屋を探して貰ってる。」
小金井さんにそう云われて少し寂しくなる。
「小金井さんは淋しくないんですか?桂さんを亡くして一人のままで.....。僕ならとっとと新しい恋人を探しちゃうけど。」
「............」
「僕が小金井さんの恋人になってあげるって云ったら?どうしますか?」
「.......」
肩を落とした小金井さんは、ゆっくり振り返ると僕の顔を見る。
「......どうもしないさ。お前を犯した償いはするけど、.....俺の恋人には出来ない。」
悔しい。
ハッキリと恋人には出来ないと云われて、僕の中の抑えていた感情が溢れだす。
「酷いですよ!ウリはするなって云って、でも僕とセックスはしてくれない!これって飼い殺しって云うんですよ?」
自分で云って困った奴だと思った。
僕が小金井さんとセックスしたいと云っている様なもんだ。そんなの、してくれる筈もない。
分かっているのに.......。
小金井さんは黙って行ってしまった。
僕に呆れているんだろうな。
高校を卒業して美容専門学校に入学した僕は、桂さんの家から学校に通っている。
でも、そろそろ部屋を探さなきゃ。
前に美容院のバイトに応募した時、学校に入学したら雇ってくれると云われて、僕はそこでバイトをする事になった。オーナーの天野さんが保証人になってくれると云って、格安の部屋を探してくれるみたいだ。
「ジュンくん、千早くんとうまくやってる?カレは優しいだろ?」
店のゴミを袋に入れて持って出ようとした時に、オーナーが戻って来てそう訊いてくる。
ふいに云われて「....はい。」としか言いようがなかった。
「千早くんもジュンくんの世話をやく事できっと救われているよ。前より笑う様になったもん。」
「......ぁ、そうでしょうか。」
「そうだよ。なんだかんだ言って、あの家にひとりでいるのは精神的に良くないと思ってたんだ。キミがいる事で少し寂しさも紛れるんじゃないかな。」
「....でも、期限が来たら出なきゃいけないし、僕もアパートが見つかったら引っ越ししなきゃいけないんです。もうすぐ......」
「ああ、そうだったね。........でも、ギリギリまでカレと一緒に居てやってよ。」
「.......はい、」
オーナーと小金井さんは随分前から親しい間柄みたいで、僕が入り込めない部分がある。
でも互いに信頼し合っているのは分かった。だから僕の事もオーナーは気にかけてくれるのだろうと思う。
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