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第34話 僕の日常

 学校が終わると、僕はダッシュで電車に飛び乗って、途中で買い物をしてから家に戻る。 食費代として小金井さんからお金を渡されて、スーパーで買い物をしている時が幸せな時間でもあった。なんたって、僕の料理で小金井さんは生きている、といっても過言ではない。 たまに飲みに行ってしまって、食べてもらえない時もあるけど、そんな時は一応「ごめん」と謝ってくれる。  食費代としてもらったお金は、ちゃんと節約して貯めている。 それは、小金井さんが貯めた分は僕に小遣いとしてくれるというからで。 なんていうのか、料理を作る僕への報酬的な? 報酬なんてホントは要らないんだけど、でも、美容室のバイトだけでは足りないと思っているんだろう。それに、また僕がお金の為にウリをするんじゃないかって心配してるのかも.....。  今日は肉じゃがときんぴらにしようかな。 カゴに食材を入れてレジに向かう。と、隣のレジにいる人を見て驚いた。 僕に背を向けているから気づかれないけれど、川北くんのお兄さんが女の人と一緒に買い物をしていた。  僕は気付かれない様に顔を背けると、お金を払ってさっさと出てしまう。 こんな所で出会うなんて.......。今はもう大学も卒業してどこかの会社に入ったんだろうな。 別に僕が隠れる必要はないけど、なんとなく気まずいし。 それに彼女と一緒の所を僕に見られたくないんじゃないかと思った。  川北くんのお兄さんがいなかったら、僕はこんな風になっていなかったかもしれない。 でも、こんな僕だから小金井さんが引き取ってくれたんだ。そう思ったら、感謝しなければいけないかな.....?  家に着く迄の間、そんな事を考えながら歩いた。  玄関を開けて入り、台所に行くと買ってきた食材を冷蔵庫に放り込む。 それから今度は美容室へ行く準備をした。 着替えを済ませてバッグを掴むと、来た道をまた戻って大通りの店まで歩く。 「お疲れ様でーす」  声を掛けながら店の裏口のドアから入ると、そこに居たのは小金井さんのお母さんだった。 「あ、こんばんは」 「ああ、ジュンくん。おかえり、学校終わってバイト?」 「はい、......」 「偉いわねぇ、毎日学校とバイトと.....、あと、うちの息子のご飯まで作ってくれて。たまには息抜きしなさい。あんなのほっとけばいいんだからね。」 「ぁ、......ははは、そういう訳には.....」 「いいのいいの、ほっといていいんだから。」 「.....はい、」  小金井さんのお母さんは明るくて、自然に話ができる感じの人。 僕があそこにいる訳を訊いてくる事もなくて、花を持って来てくれたりする。  僕はその花を桂さんの写真の前に置かれた小さな花瓶に活ける。 なんとなく、それは僕の日課になってしまっていた。  美容室の花や観葉植物もお母さんが取り換えに来たり、活け変えたりしていたから、この店でもたまに出会う事はあった。オーナーとも昔からの繋がりがあるみたいで、なんとなく家族的な感じがして、とても居心地がいい。 僕には家族がいないから、ほんのひと時でもそういう輪の中に入れてもらえるのは嬉しい。 ただ、僕の気持ちはお母さんには分からないだろうし、知られたら困る気はしている。

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