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第37話 縮まらない距離
その晩は気分が良かった。
小金井さんの家族はあったかくて、大事な話を僕にも聞かせてくれて、自分も家族の一員になった気がしたんだ。
帰り道、小金井さんの手を取って繋いでみたら、拒否されなくて。
二人で短い道のりを手を繋ぎながら家に戻った。
「何か果物でも食べますか?」
僕が訊くが、「いや、いい。」と云って二階にあがってしまった小金井さん。
さっき迄ホンワカとした気分だったのに、また少しだけ寂しくなってしまう。
小金井さんの心の中に居るのは桂さんだって分かっている。そこは僕じゃなくたってみんなが知っている事。だけど、引っ越し先にも僕の居場所を考えてくれているんだ。それは僕の事も受け入れてくれるって事じゃないのかな?
お風呂の準備をして、明日の用意も終わると、小金井さんの部屋を覗きに行った。
「おふろ.....」と云おうとして扉に手を掛けた時。
「早く成人して立派な美容師になってくれないと困るんだよな。」
そんな声が小金井さんの口から洩れる。僕はドアを思い切り開けると小金井さんに向きあった。
「僕一人が歳をとれるわけないじゃん。みんなと同じ時間がかかるんだから。」
当たり前の事を云ってしまって後悔するが、小金井さんは悲しそうな顔で僕を見る。
「まあな、確かにお前だけ歳とるわけないもんな。一分一秒はみんな一緒だ。....ごめん。」
「そんなに僕が傍に居たら迷惑ですか?さっきはそんな事云ってなかったのに....。」
眉根を寄せ乍ら小金井さんにいう。
「そういう事じゃないが、ちゃんと勉強して俺を安心させてくれって事だよ。...それに、カレシとかもできるだろ?」
「.........できません!!」
おもわずふて腐れて口を尖らせた。そんな事云うなんて......
「未成年だから酒はダメだけど、はじめママの所でよく喋っているそうじゃないか。お前を気に入ってる男がいるって云ってたぞ。」
小金井さんはそう云うとベッドから降りて近寄ってきた。
僕はカチンときて、ドアの所で突っ立ったまま動かないでいた。僕の気持ちを知っていながら、他の男の事を云うなんて。
「....天野さんは、.....オーナーと小金井さんはどんな関係なんですか?」
ずっと気になっていた事が、怒りに任せて僕の口をついて出た。小金井さんの腕を掴んで逃げられない様に、ギュッと力を入れる。
「お、おい、....離せよ。関係なんてないから。仕事の相談をしているだけだし。」
困った顔でそう云いながら、僕から逃げようと必死だ。
「ウソだ、ママが云ってましたよ。昔はチハヤくんを可愛がってて、未だに可愛くて仕方ないって。.....だから結婚しないんだって。」
「.....え、そんな話してんの?!勘弁しろよ、そんなの......。俺の大事な人は亡くなった桂だけなんだよ。天野さんとはホントに仕事上のパートナーみたいなもんで.....。」
焦りながら小金井さんはそう云って、腕を振り解こうとする。
「おーはら、俺の事は放っておいてくれ。俺はお前の恋人でも親父でもないんだ。お前はさっさと一人前になって俺の前から巣立ってくれ。いいな。」
そう云われて、僕は一気に身体の力が抜けた。
----そんな事、云われなくても分かってる------
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