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第38話 子供扱い

 僕にとっての小金井さんは、手の届く所に居ても触る事の出来ない存在で。  それをバー『リコリス』のはじめママに話したら驚かれた。  分厚い身体にノースリーブのワンピースは見ていてイタイ。筋肉質の頑丈そうな腕でワインのボトルを持ちあげると、カウンター席にいる客に注ぎながら重そうな付けまつげを小指で掃った。 「アンタたちねぇ、恋をしなさぁーい。恋しないと老けるわよぉ。」  目の前の客と話しているが、奥の席にいる僕に視線を送ると「この子なんてどうかしら。可愛いでしょう?」と云って僕の事を指差した。 「ほー、可愛いねぇ、でも子供だろ?未成年がこんな店に来ていいの?」  客は僕を見てからママに云う。 「やぁーねー。お酒は飲ませないから大丈夫よぉ。それにこの子、けんちゃんの店のバイトくんだもん。あ、あとね、千早くんとこに居候してるんだって。」 「へぇー千早くんの所に....。暫く前は店が閉店したのかと思ったけど、また復活したねぇ。」 「そうなのよー。色々あったの、あの子も。けど、今はこの居候が居てくれるから、頑張れるんじゃないかしら。」 「だったら、千早くんとくっつけばいいのに。フリーなんだろ?」 「.....フリーっていうか、.....色々拗らせちゃってるからさぁ、千早くん。」 「そうなの?」  二人の会話はそこまでで、僕を引き合いに出したわりに結局は子供扱いされただけだ。  僕は、店の奥の席でママの作った焼きそばを食べながらふて腐れた。 誰も僕となんか付き合ってくれないんだ。昔は可愛さだけで声を掛けてくれる人もいた。 それを商売にしていた事は内緒だけど、ママにはきっとバレているんだろうな。 時々「自分を大事にしなきゃダメ。」と云って、僕の事を戒める様な目で見てくる。 「小金井さんは身体は貸してやるっていうんだけど、僕を抱いてくれる訳じゃないから。ひとりでバカみたいだなって、時々悲しくなるんです。」  客が帰った後で二人きりになって、そんな事を話してしまえば、ママは太いラインの入った瞼を大きく見開いた。そして瞬きする度に付けまつ毛もバサバサと揺れる。 「千早くんって、そんなに鬼畜だったのー?あら、やっだ、あんな綺麗な顔して.....。」 「僕がどんなに想っても、一方通行のままなんですよ。僕が大人になってちゃんとした美容師になったら僕を見てくれるのかなぁ。」  なんだかしんみりとして、ママに相談しながらも気持ちはどんどん落ち込んでいく。

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