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第三章・7
エンジンをかけていない車内で、了は遥に提案した。
「帰るか? 家まで送って行くぞ」
「いえ、アパート小さいから恥ずかしいです。それに」
「それに?」
「クラブに戻って、もうひと頑張りしなきゃ」
何てことだ。
了は、自分を恥じた。
つかの間の夢を与えたつもりが、ただの自己満足だった。
このしっかり者の自称20歳の少年は、弟のために稼ぐことを忘れてはいないのだ。
「では、その分を私が指名しよう。この後、ホテルに一泊。チップも弾むぞ」
「いいんですか?」
遥は、目の前が明るくなった心地がした。
闇クラブでキモい客を相手にするより、了と共に過ごす方がずっといい。
携帯でクラブに連絡する彼の横顔は、精悍でいて優しかった。
(そういえば、僕はオーナーさんの名前を知らない)
今夜、教えてくれるかな。
そこまで、親しくなれるかな。
とくとくと、心臓の鼓動が速まることを感じながら、遥は了を見ていた。
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