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第四章・3
バスを使い、遥はベッドに掛けて了を待った。
肌に心地よいバスローブを纏い、素足でスリッパをぶらぶらと遊ばせながら。
やがてバスルームから、了が出てきた。
「ドライヤーで、髪を乾かしてくれ」
「はい!」
風を送る遥に併せて、了は手櫛で髪を整える。
器械の音に紛れて、遥の鼻歌が聞こえて来た。
「ご機嫌だな」
「え? あ! すみません!」
合唱部に所属していたので、つい歌が口をついて出てしまう時があるのだ、と遥は話した。
「合唱部か。道理で体力、気力が強いわけだ」
「解ってくださいますか?」
きちんと活動している合唱部は、歌う前に体力づくりやボイストレーニングを行う。
それは、運動部と同様に厳しく、過酷なものであることが多かった。
(遥の基礎は、部活で培われたものだったのか)
先輩、後輩の上下関係もあっただろうから、接客にも向いている、というわけだ。
「何を歌ってたんだ?」
「ご存じでしょうか。『Fly Me to the Moon』です」
「知ってるよ、有名な曲だ」
だが、なぜ遥はこの場でそんな明るい曲を?
(クラブに行かずに済んだことが、よほど嬉しかったのだろう)
だが、遥は遥で、また別のことを考えていた。
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