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第五章・2
「起きた時、了さんは居なくなってる、って思ってましたから」
「私と同じだな」
え、と遥は了を見た。
「私を置いて、遥はクラブへ戻ったのではないか、と思っていた」
頬ばかりでなく、耳まで熱くなる。
(ダメだよ。了さんは、葛城さんは、オーナーなんだから。僕なんか手の届かない、雲の上の人なんだから!)
「ルームサービスで朝食を準備した。食べるとしよう」
「あ、あの」
「ん?」
「どうして葛城さんは、僕にこんなに良くしてくれるんですか?」
うん、と了はうなずき、少し考える仕草をした。
「君が気に入ったから、かな」
気に入った人間は、贔屓にしたい。
そして、それだけの権力も財力も、私は持っている。
そう答えて、了は朝食の席へ歩いて行った。
「僕のどこを、気に入ってくれたんだろう」
それは謎のままだが、喜んでいいことなのだろう。多分。
考え込んでも仕方のないことなので、遥は起き上がった。
シャワーを浴びに、バスルームへ向かった。
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