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第五章・3

 優雅で美味しい朝食を終え、食後のコーヒーを飲みながら、了は遥に向き直った。 「これから、どうする? 夜までまだ時間がある。どこか行きたいところはあるか?」 「ありがとうございます。では、山縣町のコンビニまで送ってくださると助かります」 「コンビニ? 何か買うのか」 「僕、そこでバイトしてるんです」  了は再び、自分を恥じた。 (弟の医療費のために、昼も夜も働いているのか。この子は)  気分転換に、海にでも連れて行こうかと考えていた自分が甘かった。 「解った。コーヒーを飲んだら、出かけよう」 「ありがとうございます」  それから、と了は革の財布を遥に差し出した。 「チップだ。取っておけ」 「え? これは、お財布……」 「チップ用の財布だ。捨てても構わない」  捨てるだなんて、そんな。  どこから見ても、高価そうな財布だ。  そして、その中には。 「さ、札束……!?」  帯封も切っていない、紙幣の束が入っていた。  こんなに、たくさん。 (こ、これって。受け取っちゃってもいいのかな。多すぎないかな!?) 「治療費の足しにするといい」  了の一言で、遥は頭を下げた。 「ありがとうございます!」

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