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第六章・2

「弟の手術の日が決まりました」 「早急だな。いつだ?」 「4ヶ月後、なんです。お医者様の予約、なかなか取れなくて」  ふむ、と了は考えた。 (4ヶ月の間に、病が進行しなければいいが)  遥も同じことを思っていたらしく、そんな弱気を口にした。 「もし、4ヶ月の内に何か良くないことがあったら、僕……」 「心配するな。真っ正直に生きている遥に、神様がそんな意地悪をするはずないだろう」 「でも」  初めて見るしおれた様子の遥に、了も心を傷めた。 「少し、話そうか。君のアパートに上げてくれると、嬉しい」 「僕のアパートに、ですか!?」  狭くて汚いです、との遥の言葉を受け流し、了はぐいぐい押した。 「オーナーとして、スタッフの生活が乱れてはいないか、チェックさせてもらおう」 「う……」 (恥ずかしいけど、了さんは初めて僕のことを『スタッフ』って呼んでくれた) 『商品』ではなく、『スタッフ』  それは、闇クラブでの生活をしている遥にとって、光が射したような言葉だった。 「じゃあ、ちょっとだけですよ?」 「お茶を飲んだら、すぐに帰る」  遥のアパートには駐車場が無いため、最寄りの有料パーキングに車を停め、二人は歩いた。

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