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第八章・3
「遠山さんの行為に、規約違反はないか?」
そう、了に訊ねられた事務所スタッフは、眉を寄せた。
「体を傷つけることはありません。しかし、精神攻撃が厄介です」
「精神、か」
先ほどの、遥くんへの言葉ですが。
『私のことを、愛してるだろう? 愛してるといいなさい!』
『あ、愛してます。遠山さま!』
『ふん。薄汚れた商品の分際で、100年早い!』
『申し訳ございません』
『ああ、嘘だよ。可愛い遥。さあ、私の足の裏を舐めて、綺麗にしなさい』
『うう……。はい……』
モニターの録画を見ながら、了は額に指を当てていた。
「遠山さんは、何か病気じゃないのか?」
「かもしれません。言動に一貫性が無いというか、何と言うか」
病的なことは確かです、とスタッフも額に手を当てた。
現場を押さえて、説得するしかないか。
了は、そう判断した。
「今度、遠山さんから予約が入ったら、すぐに私に連絡を」
「承知しました」
曲者の遠山を、どうやって説得し、退会させるか。
(難しいが、やるしかないな)
遥のためだ。
「ん? いや、スタッフ全員のためだ」
遠山以上に遥に執着する自分に、了はまだ気づかなかった。
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