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第九章・3
ああ、ここでいっそのこと、私は遥が一番好きだ、と言えればどんなに楽か!
了はさすがにもう、自分の気持ちに気づいていた。
私は、この小さなΩの子を愛してしまったんだ。
この気持ちは、抑えられない。
(だが、ここで私が遥に気持ちを押し付けても、彼には迷惑なだけだろう)
「航大くん、手術がうまく行くといいな」
「はい。僕、お百度踏みました」
お守りも買った、と遥の目は真剣だ。
「あまり根を詰めるなよ。手術は6時間もかかるからな」
「はい……」
「心配するな。航大くんは、αだろう。αの生命力を信じてくれ」
同じαの私が言うのだから、大丈夫。
そう遥を励ましながら、了は考えていた。
(敵に塩を送る気持ちだ)
遥を自分のものにしたい。
しかし、その遥を幸せにできるのは、航大なんだ。
私では、ない。
「よかったら、実家まで車で送ろう」
「え、でも」
「遠慮するな。お金は、大切だろう?」
ありがとうございます、と頭を下げる遥に、了はうなずいた。
それは、自分に向けたものでもあった。
私は、彼をサポートする役に徹しよう。
そう心に決め、今まで通り遥を愛することに決めた。
たとえ、実らない恋だとしても。
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