60 / 87

第九章・3

 ああ、ここでいっそのこと、私は遥が一番好きだ、と言えればどんなに楽か!  了はさすがにもう、自分の気持ちに気づいていた。  私は、この小さなΩの子を愛してしまったんだ。  この気持ちは、抑えられない。 (だが、ここで私が遥に気持ちを押し付けても、彼には迷惑なだけだろう) 「航大くん、手術がうまく行くといいな」 「はい。僕、お百度踏みました」  お守りも買った、と遥の目は真剣だ。 「あまり根を詰めるなよ。手術は6時間もかかるからな」 「はい……」 「心配するな。航大くんは、αだろう。αの生命力を信じてくれ」  同じαの私が言うのだから、大丈夫。  そう遥を励ましながら、了は考えていた。 (敵に塩を送る気持ちだ)  遥を自分のものにしたい。  しかし、その遥を幸せにできるのは、航大なんだ。  私では、ない。 「よかったら、実家まで車で送ろう」 「え、でも」 「遠慮するな。お金は、大切だろう?」  ありがとうございます、と頭を下げる遥に、了はうなずいた。  それは、自分に向けたものでもあった。  私は、彼をサポートする役に徹しよう。  そう心に決め、今まで通り遥を愛することに決めた。  たとえ、実らない恋だとしても。

ともだちにシェアしよう!