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第九章・4

「この私が、フラれるとはね」  ボルボを運転しながら、了はうなだれた。  遥の前では見せなかったが、かなり凹んだ。  生まれて初めての、失恋。 「しかも、30歳過ぎてから味わうとは!」  若いうちは、傷の治りも早い。  すぐに、新しい恋を始めることもできるだろう。  しかし、了はもう若くない。  かといって、老いてもいないのだ。  半端な年齢に、感情が揺さぶられる思いだ。 「ええい! 傷が痛いなぁ!」  遠山に刺された傷が、運転のたびに疼く。 「ある意味、遠山さんは純だったのかもしれないな」  そして、自分に正直だった。  たとえそれが、間違った愛し方でも、だ。 「ダメだ。私には、できない」  全てをかなぐり捨てることは、できない。  どうしても、自分を演じることが先に立つ。 「いいさ、二番目でも」  無理にそう結論付け、了は今日のショックをしまい込んだ。  心の底へ、片付けた。

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