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第九章・5

 遥の両親は、普通の純朴な人間だった。  遥を家まで送った了は、息子の上司と聞いて是非にと上にあげてくれた。 「本当に、お世話になっております」 「遥は、きちんとお勤めできていますでしょうか」  ちらりと遥を見ると、縋るような目をしている。 (闇クラブのことは、秘密なんだな)  そう判断した了は、通り一遍の答えをしていた。 「真面目で誠実な遥くんには、私もずいぶんと助けられております」  ボーイズクラブで働く、と言った時には、両親ともずいぶん反対したらしい。  そういった職種への偏見も、了は少しずつほどいていった。  もちろん、遠山に刺されそうになったことは、内緒だ。  そんなことを口にすれば、遥はすぐさま両親の元へ連れ戻されるだろう。 「おかげさまで、治療費も滞りなく払えております」 「葛城さんの、おかげです」 「いいえ、全ては遥くんの頑張りですよ」  両親と了のやり取りに、遥は身を縮めていた。

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