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第九章・7

「いいご両親じゃないか」 「了さん、僕の秘密を黙っていてくれて、ありがとうございました」 「航大くんにも、会いたかったなぁ」 「航大は、病院ですから」  そんな他愛もないことを話しながら、駐車場まで歩いた。 「ところで。航大くんには話してあるのか?」 「闇クラブのことですか?」 「いや、君が彼を愛してる、ってこと」  それは、と遥は下を向いた。 「言ってません。兄弟ですから、そう簡単には」 「そうか。そうだな」 「でも、手術が成功して元気になったら、告白しようかな、って考えてます」 「フラれるかもよ?」 「それでも、いいんです」  もうこれ以上、気持ちを抑えることはできません。  真っ直ぐな遥の言葉は、了には眩しかった。 「うまく行くといいな、全てが」  そう言い残し、車に乗り込もうとすると、遥が引き留めた。 「何だ?」 「あの。握手してもらえますか」  いいとも、と了は遥の手を握った。  しばらく握手したのち、改めて車に乗って立ち去った。 「了さんの手、大きくてあったかかった」  この手のぬくもりが、僕のお守り。  遥は、そう感じていた。

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