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第十章・2

「了さん、もう遅いから泊まっていかれませんか? 少し酔ってらっしゃるし」 「そうさせてもらうか」  ちょっとだけ仮眠して、酔いを醒ましてから帰る、との了に、遥はシャワーを勧めた。 「こんなこともあろうかと」  用意していた部屋着は、大きな了にぴったりのサイズだ。  遥の心遣いは、ユニットバスから出てきた了を喜ばせた。 「用意がいいな。ありがとう」 「お布団、敷いておきました。眠かったら、先にどうぞ」 「うん」  いい返事はしたものの、了は眠らなかった。 「この後、遥を抱ければ最高なんだが」  だが、航大のことが好きだ、と告白されてから了は遥を抱いていない。  クラブで指名しても、彼を労わり眠らせるだけだ。 「以前の私なら、構わず手を出していたんだろうけど」  真に愛する人間には、逆に奥手になっている。  航大を愛している遥を、いじめるような真似はできなかった。 「あれ? また飲んでたんですか?」 「遥も、付き合うか?」 「僕は、遠慮しておきます」  髪を乾かす遥を、了はぼんやり見ていた。  飲んでも飲んでも酔えない酒で、ただ喉を潤していた。

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