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第十章・3
一つの布団に二人で潜り、明かりを消す。
遥の香りは、芳醇なブランデーの匂いより了の心を弾ませた。
「遥、明後日の休みは、どう使う? 良かったら、私と出かけないか?」
「ごめんなさい。その日は、帰省することにしてるんです」
「航大くんに、何かあったのか」
「いえ、面会です。かなり元気になったから、会いたいって言ってくれて」
そうか、と了は残念な思いを胸に、明るい声をかけた。
「告白、するのか?」
「そのつもりなんですけど。勇気が出なくて」
告白なんて、ダメもとでやるもんだ、と了は遥を励ました。
「うまくいくように、祈ってるよ」
「ありがとうございます」
遥は、おずおずと了の手を取った。
「手を、握って眠ってもいいですか」
「いいよ」
温かな了の大きな手は、遥にとってお守りだ。
(どうか、航大が僕の気持ちに応えてくれますように……)
心の中で、そう唱えながら眠った。
「複雑な心境だ」
寝入ってしまった遥の手を握り直し、了はそうつぶやいた。
遥は、私に好意を持ってくれている。
「ただそれは、信頼にすぎないんだよなぁ」
愛、とは違う。
「航大くんの返事、どうなるだろうね」
彼が受け入れれば、了は次第に遥から距離を置くつもりでいた。
でなければ、切なすぎる。
了もまた、落ち着かない気持ちで眠りに就いた。
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