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第十章・6

「俺さ、早く退院したいな。高校に復学して、勉強やり直して」  そして、雪緒みたいな看護師になりたい、と語る航大は真っ直ぐな目をしていた。  彼の呼び方も、『雪緒さん』から『雪緒』に変わっている。 「そう、だね。なれるよ、航大なら。優秀な看護師さんに」 「だろ!? 遥が入院したら、俺が担当してやるからな!」 「冗談。僕は入院なんかしないよ」  航大が笑い、遥も併せて笑った。  しかしその笑い声は、どこか遠いところから聞こえて来るかのようだった。  泣きたい。  無残に砕けて散った、僕の恋。  そんな時、胸に浮かんだのは了の姿だった。 (了さん。僕、失恋しちゃいました)  告白することもなく終わった、悲しい恋。  了さんに会いたい。  会って、報告したい。 「じゃあ、航大。僕、もう行くから」 「え? もう?」 「リハビリ終えて、疲れてるだろ? ゆっくり休んでよ」 「うん。でも、また来てくれよな」  解った、と最後の笑顔を航大にあげて、遥は病室から出て行った。  涙でぼやけた廊下を、歩いた。

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