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第十章・7

「遥、どうした?」  携帯にかかってきた、遥の声は妙に明るかった。  だが、その内容は明るさにそぐわないものだった。 『了さん、僕フラれちゃいました』 「……そうか。気を落とすな」 『どうしよう。どうしたらいいんですか、僕』 「遥、落ち着きなさい。今、どこにいる?」  電車に乗って帰る途中、と遥は答えた。 「実家に一泊するんじゃなかったのか」 『僕、辛くて。ホントにもう、辛くて……』 「よしよし。駅まで迎えに来てやるから。だから、しっかりしろ」 『僕、もうダメです……』 「ダメじゃないから。だから、電車で眠れ。眠っているうちに、到着する」 『はい……』  通話を終えた了は、額に指を当てた。 「可哀想にな、遥」  彼には、幸せになって欲しかったのに。  仕事は途中で放り出し、了はボルボに飛び乗った。  遥を迎えに、駅へ走らせた。

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