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第十一章 好きだよ

 駅構内の広いフロア。  その隅のベンチに、遥はひっそりと掛けていた。 「遥」 「了さん」  目が、赤い。  きっと、泣いたに違いない。  いや、それより気になることが。 (何だ、この感じは)  涙に濡れた遥の瞳に、疲れ果てた彼の体に、ぞくりと来る。  ありていに言えば、セックスアピールを感じるのだ。 (失恋で弱ってる遥に欲情するなんて、何て男だ、私は!)  自分で自分を叱りつけ、了は遥をそっと立たせた。 「歩けるか? お昼は何か、食べたか?」 「お昼ご飯、食べてません」  では、と了は遥を車に乗せて、駅近くのホテルに入った。  星の付いた、いいホテルだ。 「ルームサービスを取ってやるから。何か食べたいものはないか?」 「ごめんなさい。先にシャワーを使ってもいいですか……」 「ん? 好きにしろ。サンドウィッチか何か、用意しておくから」  細い声で、ありがとうございます、と言い残し、遥はバスルームへ消えた。

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