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第十一章・2
遥がシャワーを浴びる間、了はあれこれと考えていた。
彼には悪いが、この状況は了にとってはチャンスなのだ。
「私が遥をどれほど大切に想っているか、伝えるか?」
そうすれば、弱った心の遥がなびいてくれる可能性は、高い。
「いやしかし。傷も癒えないうちに、重ねてショックを与えるのはどうかな」
今、遥に必要なのは、ゆっくりした時間と癒しのはずだ。
「私からの告白は、保留にしておこう」
そう結論付けたところで、サンドウィッチが届き、遥がバスルームから出てきた。
「ちょうど良かった。少し、食べるんだ」
「食欲が、無くって」
「無くったって、食べるんだ。人間、腹をすかしていたら、ろくなことを考えないからな」
食べれば入る、と勧めた了の言う通り、遥はサンドウィッチだけでなく、フルーツサラダも魚介のフリッターも、よく食べた。
そして、食べながら泣き笑いをするのだ。
「僕、失恋して心が破けそうなのに、お腹はちゃんとすいてるんですね」
「それが、人間というものだ。遥が罪悪感を覚える必要はないぞ」
遥に付き合いサンドウィッチを頬張りながら、了はやはり妙な気分を味わっていた。
(まただ。時々、むせるような色香を遥から感じる)
「ごちそうさまでした」
歯を磨いて少し眠ります、との遥の言葉に、了はピンときた。
「遥、薬は? 食後に発情抑制剤は飲まないのか?」
「あ……」
すみません、と遥は了に謝った。
「お薬、朝から飲んでないんです」
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