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第十一章・3
遥の両親は、Ωの彼を心配し、発情期を迎えてから薬だけはきちんと飲むように教育してきた。
遥もまた、その言いつけを守り、今日までフェロモンを発することはなかった。
だがしかし。
「了さん、僕は心の醜い人間なんです。朝のお薬飲まずに、航大に会ったんです」
「遥。まさかそれは」
「Ωのフェロモンで、航大が僕の気持ちに応えてくれるかも、って考えて。それで」
「フェロモン、間に合わなかったんだな」
朝の薬を飲まなくても、血中に残った成分がΩフェロモンを抑えていたのだろう。
その効果が切れるのが、昼にずれ込んでしまったのだ。
「道理で、駅で見た時から遥が妙に色っぽいと思った」
「色っぽいですか、僕」
いつも、可愛い、と称される遥だ。
贔屓にしてくれるクラブの客も、彼の幼さに惹かれる人間が多かった。
「誉め言葉で、色っぽいよ」
「初めて、言われました」
「失恋したから、だな。きっと。遥、失恋は辛いが、自分を磨く糧になる」
「……」
遥が黙ってしまったので、了は少し反省した。
(説教臭かったかな)
しかし、遥は濡れた唇でささやいた。
「了さん……、抱いてくれませんか?」
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