74 / 87

第十一章・3

 遥の両親は、Ωの彼を心配し、発情期を迎えてから薬だけはきちんと飲むように教育してきた。  遥もまた、その言いつけを守り、今日までフェロモンを発することはなかった。  だがしかし。 「了さん、僕は心の醜い人間なんです。朝のお薬飲まずに、航大に会ったんです」 「遥。まさかそれは」 「Ωのフェロモンで、航大が僕の気持ちに応えてくれるかも、って考えて。それで」 「フェロモン、間に合わなかったんだな」  朝の薬を飲まなくても、血中に残った成分がΩフェロモンを抑えていたのだろう。  その効果が切れるのが、昼にずれ込んでしまったのだ。 「道理で、駅で見た時から遥が妙に色っぽいと思った」 「色っぽいですか、僕」  いつも、可愛い、と称される遥だ。  贔屓にしてくれるクラブの客も、彼の幼さに惹かれる人間が多かった。 「誉め言葉で、色っぽいよ」 「初めて、言われました」 「失恋したから、だな。きっと。遥、失恋は辛いが、自分を磨く糧になる」 「……」  遥が黙ってしまったので、了は少し反省した。 (説教臭かったかな)  しかし、遥は濡れた唇でささやいた。 「了さん……、抱いてくれませんか?」

ともだちにシェアしよう!