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罪悪感と‥ ※
「ただいまー‥」
玄関のドアを開ける七海にいつもの元気はない。キッチンから漂ってくる大好きなカレーの匂いも、今日は鼻について仕方がない。母が「もうすぐご飯できるから」と声をかけると、七海は小さく「うん」とだけ返事をし、自室に向かった。
七海の自宅は学校から電車で1時間ちょっとの距離にあり、7階建てマンションの6階に、サラリーマンの父と専業主婦の母、大学2年の兄と暮らしている。七海にはもう1人兄がいるが、地方の大学に進学したため家を出て一人暮らしをしている。兄は双子で、一緒に住んでいるのは下の兄の方だ。
部屋に入るなり制服も脱がずに顔面からベッドに勢いよく倒れ込んだ七海。枕に顔を埋めると、数時間前に学校で目にした光景が鮮明に頭を過る。
*******
「まっ‥待って、立てない‥‥っ」
「座っていいよ」
七海がそう促すと、力なく縋りついていた修作はそのまま床に崩れ落ちた。
『‥‥試してみる?俺の色気ってやつ』
そう言って突然豹変した七海に不安を覚え必死に抵抗する修作だったが、纏わりついてくる七海の勢いにのまれ、いつしかされるがままになっていた。
「先輩上出来」
「……っ」
足の間に割って入った七海は、制服越しに扱いていた修作の下半身が十分に反応したのを見て満足げに目を細める。慣れた手つきでベルトを外し、あっという間にファスナーを下ろして固くなったものを取り出すと、躊躇うことなくそれを右手で包み込んだ。
七海の腕を掴んで僅かばかりの抵抗をみせる修作だが、握られた手が上下に動くたびにその理性は簡単に失われていく。指先で敏感な部分を刺激すると修作の身体は素直な反応をみせ、七海はそのたびに高揚し満足げな笑みを浮かべた。
「‥‥っ、あ、も、‥‥」
「イっていーよ」
「‥‥っ、頼む、離して‥‥っ」
「それはだめ~」
修作の訴えをあっさりと拒否して、七海は徐々に擦り上げるスピードを早めていく。先走りを撫で付けてわざとらしく水音をたてると、それは修作の絶頂を促すには十分すぎる材料となった。
「あ、あ、あっっ………!」
握られた腕が強く締め付けられた瞬間、手のひらに生温かい感触が広がった。
********
ほんのついさっき名前を知ったばかりの先輩が、自分の目の前で力なく座り込んで肩で息をしている。
『先輩、気持ちよかった?』
そう問いかけた自分を見上げる困惑した表情、手のひらの生温かい白濁、それを口に含んだ時に口腔内に広がった苦みと微かな甘み。
あの時の自分の行動を思い返して七海は激しく後悔した。せっかく修作と知り合えて、話をして、これから仲良くなれると思ったから。
だけど。
「すっげー‥興奮した‥」
人のものに触れるのは久々で、まだ感触の残っている右手を見つめ、七海はため息混じりにそう呟く。
あの時の記憶は所々途切れてぼんやりとしている。ただ言えるのは、目の前にいたはずの修作は自分の目には映っていなかったという事。記憶の中の“先生”を思い出しながら行為に及んでいた事は、七海自身も自覚していた。
先輩への罪悪感よりも、自分の欲望を満たしたいという思いの方が圧倒的に勝ってしまった。それほど、あの行為は七海にとっては刺激的なものだったのだ。
うつ伏せになったまま手を伸ばし、鞄からおもむろにケータイを取りだす。ラインのアイコンに触れアプリを起動させると、帰り際半ば強引に交換した修作の名前がそこにあった。
『修作先輩、またしましょうね』
思わず出た言葉は修作を困らせてしまったに違いない。案の定、「するわけないだろ!」と険しい顔で断られた。だけど、一度思い出してしまったあの快感からはもう逃れることはできない。何としても修作を繋ぎ止めておきたかった。
――先輩も気持ち良さそうだったし‥悪いことじゃないよね‥?
七海はそう自分に言い聞かせ、必死に自己正当化を図るのだった。
「七海ー!メシー!」
部屋の外から兄の呼ぶ声がして、七海は気怠い身体をゆっくり起き上がらせた。
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