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嘘つき ※

6月になり、学校生活にもだいぶ慣れてきた頃。 人の少なくなった放課後の教室で、七海は手に持っているスマホの画面と窓の外の景色を交互に眺めていた。 今日はどうも朝から落ち着かない。心ここにあらずといった感じで授業中も集中力を欠き、七海は何度も教師に注意されていた。 その理由は明確だ。 今日は4回目の実行委員会の日。 結局、前回の実行委員会のあと一度も修作とは言葉を交わしていない。連絡先を交換したことさえ忘れかけていたのだが。 今日になって、七海は数日前に行った空き教室の事を思い出していた。頭を過る、校舎の隅の薄暗い部屋。 『普段来る奴いねーんじゃねーの?』 友人の言葉を思い出し、胸がざわつく。 あそこなら誰にも邪魔されずにあの密事ができるかもしれない。そう思うと体の奥が熱くなった。 「一ノ瀬君、先行くから。遅れないようにね」 同じ実行委員の大森にそう声をかけられると、 七海は手に持っているスマホに再び目線を落とした。開いていたラインの画面の送信ボタンを少し躊躇いがちにタップすると、急いでロックをかけてそれを鞄に放り込む。大森の後を追うように、七海も実行委員会の開かれる3年E組の教室へと向かった。 『 一ノ瀬七海:いい場所見つけました☆委員会終わったら一緒に行きましょ~!』 送信したメッセージに既読がつくのは、それから間もなくのこと。 「せーんぱい!」 実行委員会が終わり、七海は修作の元へ駆け寄り声をかける。一瞬驚いたような顔でこちらを見たので警戒されているのが分かったが、『帰りましょう』‥笑顔でそう誘うと納得した様子で後をついてきたので安心した。 もちろん、そのまま帰るつもりなんてなかった。 昇降口とは真逆の方向へ進み、第三校舎奥の空き教室前に着くとさすがに修作もおかしいと気がついたらしい。引きつった笑顔を見せて半歩ほど後ずさったので、七海はとっさに修作の手首を掴んで教室の中へ引き込み勢いよく引き戸を閉めた。 振り返って修作を見上げる瞳はどこか冷たく、ふっと笑うその表情も妖艶で悲壮感をも纏っている。つい先ほどまで陽気に笑っていたのが嘘みたいに、七海はあの時とまるで同じ雰囲気を醸し出していた。 ふとしたきっかけでスイッチが切り替わる。それは七海自身でさえ気づかない、ほんの一瞬の出来事。 「ちょちょちょちょっと!ちょっとタンマ!」 「何?も~相変わらずうるさいなぁ」 掴んだままの手首をぐいっと引っ張ると、バランスを崩した修作の身体は天板が壊れて使い物にならなくなった机の上に落ちる。手をブンブン振りまわし、ワーワー騒ぐ姿に七海は少し苛つきを覚えた。 「先輩しー。誰か来ちゃうよ」 そう言って口の前で人差し指を立てる。こんな場所に人が来ることは滅多にないのはわかっているけれど、修作がどんな反応を見せるのか知りたくて、七海はわざとらしい動作で修作を煽った。 案の定、修作は慌てて口を抑え焦った様子を見せたので、その素直すぎるリアクションに七海はたまらず笑い声を漏らした。予想以上の反応で面白くて仕方がない。修作の一挙手一投足が七海の感情を揺さぶった。 「先輩、将来騙されて壺とか買っちゃいそう」 そんな冗談に言い返す余裕すらない修作は、慣れた手つきの七海に今日もあっという間にズボンと下着を下ろされてしまう。 「な、ちょっとホントやだって…っ」 七海によって露にされた下半身はすでにゆるく勃ち上がり、ヒクヒクと脈打っていた。自分の意志とは関係なく反応しているモノを見て羞恥の表情を浮かべる修作に、七海はさらに追い打ちをかける。 「そんなかわいそーな先輩のために出血大サービス」 力なく開いた足の間に強引に身体を割り込ませて膝立ちになると、七海は躊躇うことなく修作のモノに舌を這わせた。 「~~~~~っ!!!」 声にならない声を出して身体をビクつかせ、僅かな理性で未知の快感から逃れようと腰を引こうとする修作だが、七海はそれを許さない。 華奢な身体付きとはいえ七海も立派な高校男児。力任せにグッと修作の脚を押さえると、先程より大きくなったモノを唾液をためた口内に一気に含んだ。 「あっ!うぁ、あぁっ‥‥!」 「こっちのがきもちいでしょ?」 そう言って修作を口で弄ぶが、瞳を固く閉じた七海の脳裏に浮かぶのは大好きだった人の優しい微笑みと擽るような甘い声。 あの人はどんな風にすると気持ちよくなってくれたっけ?髪を撫でて、自分の名前を呼んでくれたっけ? ‥そんなことばかり考えていた。 「いっ、一ノ瀬……っ」 苗字で呼ばれた違和感でふっと意識が引き戻される。目を開けて動きを止めた七海は表情を歪め、下唇をキュッと噛みしめた。 (せっかく‥いいところだったのに) 現実を見てしまえば、もうそこには虚しさしかない。 早く終わらせよう、そんな風にぼんやりと考えながら、熱く脈打つ修作のモノを再び口へ含む。右手を添えて口の動きに合わせて少し強めに上下させると、修作はあっという間に七海の口の中で射精した。 「どうだった?初めてのフェラは」 「お前、また‥‥」 「え?あー。そりゃ口ん中出されちゃったら飲むしかないでしょ」 「なっ‥‥!」 飲み込みきれなかった生ぬるい精液が口元を伝い、七海はそれを親指で拭う。無意識とはいえその仕草は実に艶っぽく官能的で、それを目の当たりにした修作は気まずさで思わず七海から視線をそらした。何の疑問も抱かずに白濁を飲み込めてしまうのは、七海がこの状況に慣れている何よりの証拠でもあった。 「次は来週だね」 「は?!」 「委員会の日。やっぱ本番近付くにつれて打ち合わせも増えるよね~」 「お前これ毎回やるつもりかよ!」 「は、今さら?当たり前じゃん何言ってんの」 「当たり前じゃねーよ‥‥。何で‥‥」 何で? 『アナタは先生の代わりです』 そんなの絶対言えるわけない 「何で?んー、何でだろう‥‥」 七海は言葉を濁して質問の答えを必死に探す。補習常習犯の七海にとって、難しいことを考えるのは苦手だ。ましてや嘘をつくなんて。 なけなしの知恵を絞ってやっと出てきたひとつの答えを、七海はポツリと呟やく。 「ま、ヒマつぶし?かな」 それは自分勝手であまりにもひどい言い草だったが、真実に比べたら十分すぎるほど優しいものだった。

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